TBS「報道特集」キャスター 金平茂紀氏よりひと言


金平茂紀氏 2010年まで2年間だけ米コロンビア大学に在籍してみて、大学を含む学校公教育の中で、テレビやラジオの放送番組が、ごく当たり前に国民の共有財産として授業で活用されているさまを見て、鮮烈な感動を禁じ得なかった。フェアユースという考え方がなぜ私たちの国では困難なのか。それを突き破る試みとして本書を強く推薦する。








授業・講義にもっと「放送番組」を活かそう!


放送番組で読み解く社会的記憶 「放送番組で読み解く社会的記憶―ジャーナリズム・リテラシー教育への活用」
早稲田大学ジャーナリズム教育研究所,公益財団法人放送番組センター〔共編〕 
A5・390p+DVD1枚 2012年6月 日外アソシエーツ刊行
定価(本体5,000円+税)
ISBN:978-4-8169-2365-4
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目 次
はしがき 花田 達朗(早稲田大学教育・総合科学学術院教授)
総論 放送番組資料の教育活用と社会的記憶の批判的検証 花田 達朗
第1章 ヒロシマ・ナガサキの樹 安藤 裕子(早稲田大学非常勤講師)
第2章 BC級戦犯の樹 藤田 真文(法政大学社会学部メディア社会学科教授)
第3章 華僑・華人の樹 林 怡蕿(仙台大学スポーツ情報マスメディア学科准教授)
第4章 原子力の樹 烏谷 昌幸(武蔵野大学政治経済学部専任講師)
第5章 「水俣」の樹 小林 直毅(法政大学社会学部教授)
第6章 失業の樹 伊藤 守(早稲田大学教育・総合科学学術院教授)
第7章 ベトナム戦争の樹 別府 三奈子(日本大学大学院新聞学研究科/法学部教授)
第8章 沖縄返還密約の樹 花田 達朗
第9章 犯罪の樹 大石 泰彦(青山学院大学法学部教授)
第10章 アフガン・イラク戦争の樹 野中 章弘(アジアプレス・インターナショナル代表)
資料編 関連番組一覧
あとがき 鈴木 豊(放送番組センター)
放送ライブラリーの紹介

早稲田大学ジャーナリズム教育研究所(J-Freedom)
早稲田大学総合研究機構に承認されたプロジェクト研究所のひとつで、「ジャーナリスト教育の研究開発とジャーナリズム研究の革新」をテーマとして、2007年4月に設立された。ジャーナリスト養成教育の場として、オープン教育センター・全学共通副専攻・ジャーナリズム/メディア文化コースを展開し、全学の学部学生を対象にしている。所長は花田達朗氏。
公益財団法人 放送番組センター
放送の健全な発達を図ることを目的として、1968年3月、NHKと全民放テレビ局が共同して設立した。1991年からは、放送法第167条の指定を受け、放送番組を文化遺産として収集・保存し、一般に公開する放送ライブラリー事業を実施。保存した番組をメディア・リテラシー教育などに役立てていく方策も推進している。2012年4月、公益財団法人に移行した。

早稲田大学ジャーナリズム教育研究所所長 花田達朗氏の序文

 少なくとも日本において類書のない本をここに刊行することになった。本書はどのような本であり、どのように読まれ、使われるべきであろうか。

 その問いに入る前に、放送番組とは私たちにとってどのような意味をもつものかを考えてみたい。私たちはテレビニュースを通じて毎日の政治的、経済的、社会的な出来事を観て知り、ドキュメンタリー番組を通じて出来事や歴史や人間の深層や実相を観て知り、テレビドラマを通じて時代の雰囲気や人間への見方を観て知り、ワイドショーを通じて世相の切り取られ方を観て知り、CMを通じて商品とその消費イメージを観て知る。その知るということ、あるいは認知するということは、テレビの中での映像・言語表現が私たちの頭の中に残り、蓄積され、濃縮され、沈澱されていくということである。そして、それは個人的レベルを越えて社会的レベルへと至り、やがてこの社会、この世界、この時代、この歴史についての集合的な記憶へと形成されていく。記憶は社会的なものになり、人々の間で共有化されていくのである。

 すなわち放送番組は社会的記憶の源泉のひとつとなっているのであり、しかもその映像イメージや、映像と映像を繋いでいく論理(それは明示的に語られることはない)などの効果によってある特有のモードで社会的記憶の生産が今日も続けられているのである。放送番組経由の社会的記憶とは、放送番組によって表象された社会的現実を私たちが選択的に解釈し記憶し、それを現実や事実だと考える傾向にあるということである。そして、その記憶を拠り所にして、今日の社会的現実と接触し、それを認知し、解釈し、位置づけていくのである。

 本書は、早稲田大学ジャーナリズム教育研究所が放送番組センターの委託により開始した共同研究を実行するために構成された「放送番組の森研究会」の成果である。10名の研究者の賛同を得て、研究会が実質的に活動を開始したのは2010年1月23日だった。それから2年経ったいま、私たちは研究成果をここに公刊しようとしている。研究会の発足当初にあったのは、大学の授業で放送番組を活用する具体的方法を考えること、そしてその授業のための「教材」を開発し制作し公表することの2点であった。その中身のコンセプトについては研究会の討論に委ねられ、試行実験を通じて構成されていった。

 そして、ここに完成した「教材」は、研究会メンバーが社会的テーマについて一人一本の「テーマの樹」を立て、放送番組がそのテーマについてどのような表現をしてきたか、それがどのような社会的記憶の形成に関わってきたのかを検証する、そういう授業のための教材となっている。「樹」の立て方については共通フォーマットを作ったが、その中身については各テーマの固有性を尊重して、自由な幅をもたせている。フォーマットの中には「授業展開案」の項目が含まれている。これは「樹」の立案者が自分でやりたい授業をする場合の構成案として作ったものであり、一つの事例として受け止めていただきたい。決して授業のためのインストラクションとか指南書とかいう意味ではないし、ほかの人にこのような構成で授業を行ってほしいというメッセージでもない。その意味では「教材」というのは語弊があるかもしれない。むしろ、授業事例を参考にして、放送番組を活用した授業を作り出し、試していただきたい。

 「授業構成案」の提示という具体的な提案を行ったのは、私たち研究会が具体的かつ現実的な仕方で問題解決にアプローチしようと考えたからである。では、その解決すべき問題とは何か。大学での授業の中で放送番組を活用する仕組みやシステムがまだできていないということである。そこにはさまざまな制約がある。放送番組を大学でより自由に活用できるとしたら、どのような授業ができるのか、それを明示することこそが、放送業界を含めた、外の政治・経済・社会に対して改善のアピールになると、私たちは考えたのである。

 「放送番組の森」はこれで終わらない。私たちは呼びかけたい。みなさんにこの教材フォーマットを利用していただき、1本でも多くの「樹」を立てていただきたい。それがたくさんになれば、やがて「森」になる。それは大学での放送番組活用の具体的なニーズの浮上であり、顕在化となるのである。そのことが現行の制度やルールを変え、新しいシステムを生み出していく力になると、私たちは信じる。

 終わりに、本プロジェクトにご協力いただいた研究会メンバーに感謝したい。あまり馴染みのない仕事で苦労はあったけれども、ユニークな経験を楽しまれたとすれば、幸いである。また、研究委託元の放送番組センター事務局長の鈴木豊氏、業務部長の筧昌一氏には大変お世話になった。毎回の研究会にもご出席いただき、感謝申し上げたい。さらに、本書の編集・出版をお引き受けいただいた日外アソシエーツ編集局の青木竜馬氏と簡志帆氏に心からお礼を申し上げたい。

2012年3月
早稲田大学ジャーナリズム教育研究所所長
「放送番組の森研究会」座長
花田達朗

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