第2回 図書館サポートフォーラム賞受賞

安井 清子氏

安井 清子氏
【安井清子氏ウェブサイト「パヌンのかぼちゃ畑」】
【著書】 ※2015.1追記
 『ラオス 山の村に図書館ができた』(福音館書店)2015.1刊
【受賞のことば】
 本日はこんな素晴らしい賞をいただきまして、ほんとうにありがとうございました。私は図書館活動といいましても図書館のことを勉強したこともなければ全然分かっていないので、図書館サポートフォーラム賞っていうのをいただいていいのかなっていう感じがあるんですけれども・・・。
 私自身、大学4年の時は子どもの本をつくる仕事ができたらいいなあと思っていました。たまたま「おはなしキャラバン」という、子ども達に人形劇をしながらおはなしをする活動をしているグループに出会いまして、大学を卒業してすぐその団体に入りました。1年間は全国の幼稚園をまわって、そんな活動をしていたんですが、その時たまたま曹洞宗ボランティア会っていうNGOですけど、そこからタイの難民キャンプに図書館をつくる仕事があるんだけど行かないかって、話がもちあがりました。私は何も分からないままにタイのラオス国境にあるバンビナイキャンプという難民キャンプに派遣されていったんです。 行く前はタイ語もできなかったですし、そこの難民キャンプにいるモン族っていう少数民族のことも何にも知らなかったんですけど、「おはなしキャラバン」の方から、子どもが相手だからとにかく絵本を持ってけって言われて、絵本を100冊位を持ってキャンプに行ったのが始まりです。
 ほんとうに何にも分からないまま始めたんですけれども、とにかく最初は小屋も何もなくて、木の下にござを敷いて、絵本なんか見たことがないので、絵のついた本、色つきの絵っていうのはもの珍しかったのでしょう。子ども達は何か面白い人が来てるよってかんじで寄ってきました。最初はモン語で「なに」っていう意味の「ダッチ」という言葉だけを覚えて、「ダッチ」「ダッチ」と、絵を指しては子ども達から言葉を習うきっかけにしたりしたんです。子どもに絵本を渡すと、逆さに見たり後ろから開いてたり、絵本にどんな絵があるんだろうってばーと見てばーんと投げ返してきたりとか、ものすごい状況でした。子ども達はみんな泥だらけですし本も真黒になって、これからどうしようって、かんじでした。
 すこし子ども達にきっかけをと思い『おおきなかぶ』の絵本を見せたんです。絵本を私が持ち子ども達に向かって、言葉ができないので日本語で「ちいさなかぶを植えました」なんて言うと、絵を見たら分かるからいいやって、仕草で分かるんです。ページをめくるとかぶが大きくなるんですけど、それを子どもが「わあ大きい」なんて言ってるんですが、ただ黙ってめくっているのはあまりにも芸がないので、小さなかぶを引っ張るところで自分も絵本を持って一緒に絵本ごとかぶを引っ張るまねをしたんですね。モン語で「1・2・3」を「イ・オ・ペ」っていうんですけど、「イ・オ・ペ!」って引っ張る真似をしたら子どもがすごく喜んだんです。次にもうその子どもが、新しい子どもが来ると自分で絵本を持ってお話してあげてたりしたんですね。それで、ああ子どもはやっぱりきっかけがあればおはなしをすごく理解できるんだ、子ども達が一生懸命絵本を見てて、すごくいろんなものを絵本から発見するっていうか、ちょっとしたきっかけでおはなしがを伝わると、どんどん絵本を楽しんでる様子が分かって、どこの国の子どもでも本当におはなしが好きなんだなあっていうのを、私は本当にモン族の子ども達から教えてもらったんです。
 1年くらいそういうことをやって、どちらかというと遊んでいるような状態で子どもと接していたんですが、モン族の人にも、やっぱり語り伝えられてきたおはなしがあることが分かりまして、それでおじいさんにおはなししてもらったら、とうとうとして語る、1時間くらいしてくれたんです。モン族は文字を持っていない民族なんですけれども、そのとき初めて、語りというのは本当に言葉が生きてるんだなっていうのを実感したんです。意味が分からなくっても語りがもつ力により、どういう場面なのかなっていうのが想像できるぐらいすばらしい語りがあるんだ、だから文字がなくてもおはなしはあるんだ、本がないからおはなしがないって思っていた自分は、ああ何てバカだったのかなあって。それから民話を記録をするっていうことも始めたりしたんです。
 これはモン族の「刺繍絵本」なんです。おはなしの絵本をもっていないものですから刺繍でつくったんです。モン族の人は刺繍がすごくうまいんですね。最初は絵本を元に描けって、子ども達も絵本のような絵は描けないんですけど刺繍にすると、ほんとびっくりしちゃうようなものができまして、刺繍絵本、これが難民キャンプに5年間いて2年目くらいにできあがったです。こういうのができるとモンの人達も、なあんだ刺繍で絵本が出来るのかっていうんで、子どもも若者もいろんな人たちがみんな刺繍で絵本をつくったんです。そしてアルファベットで書いたモン語というのも今は使われるようになったんです。まだ使える人はそんなには多くはないんですけどもね。
 こうした活動をずっと難民キャンプで曹洞宗ボランティア会、今はシャンティ国際ボランティア会っていうんですけれども、そこのスタッフだったときにやったことなんです。シャンティ国際ボランティア会は現在もラオスで図書館支援をしています。ラオスも全然本もないし図書館もないので、学校に本を配るために図書箱っていうんですけど、箱に本を入れてそれをとりあえずいろんな学校に配って、それを図書室にしてもらおうっていうので、図書箱を配る活動をしています。
 私自身はモン族という少数民族に関わりたいって気持ちが強かったものですから、5年前くらいに辞めまして、3年くらい前からラオスの文学研究所の人と一緒に村々を訪ねては、お年寄りの人におはなしをしてもらい民話を記録し集めるっていうことをやっています。話せる人は20話も30話もどんどん話してくれるんですけれども、やっぱり文字で書かれていないですから、このままだとたぶんそのお年寄りが亡くなった時におはなしもなくなっちゃうんじゃないかな、ということが、とっても残念だなあと思いまして、録音したからいいってもんじゃないんですけど、でもとりあえずは録音することによって記録としても残るし、やっぱりおはなしっていうのはすばらしいんだよっていうことがモンの人自体に伝わればいいなって思ってやってるんです。最初、村に行くとまず「何しに来たの?」って問われ「おはなしを聞きに来た」って言うと、日本からわざわざそんなことをしに来るはずがないと思ってるんで、「違うだろ。何しに来たの?」ってまた聞くんです。実は何か売りに来たんじゃないのとか、ぜひ農業援助をしてほしいとか言われたりすることもありました。でもモンの人にとっては「おはなしなんてその辺にいっぱいあるでしょ。何でそんなの集めるの」っていうようなかんじで、民話がなくなるというふうに思っている人はいないんですね。
 実際におはなししてもらうと、村の人たちが結構みんな集まってきて、子ども達も集まってきて、電気とかガスとか全くないんですけど、囲炉裏端の暗い中でおはなししてくれるんですね。それは私なんかも経験したことのない世界なんです。本当に素晴らしい経験をいっぱいさせてもらっているんですけど、自分だけの経験に終わらせてはいけないと思っています。そこで録音したテープを、出来れば音声としてもラオスのモンの人がまた利用できる形で残せたらいいな、というふうにも思っています。
 現地語を文字に残すと同時に、モン語も一応書き文字が出来ているので、出来れば若い世代の人たちを巻き込んでやれたらいいなと、いろいろ思っているんですけど今まだ試行錯誤の状態です。
 でも、今日、賞をいただきまして、これをこれからの励みにして、試行錯誤を続けながらがんばっていきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

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