木部 徹氏((有)資料保存器材) 受賞のことば

木部徹氏 木部でございます。突然スピーチを仰せつかりましたが、聞いておりませんでしたので大変緊張しております。本日はありがとうございます。

 ご覧になっておわかりになります通り、私一番はじっこに居るわけですが、自分自身どうしてここにいるのかなという気がずっとしております。

 諸先輩といいますか、ずっと業績をあげてこられた方と並んでこういう賞をいただくということは、「絶対嘘だろう」という感じが今でもしているくらいです。

 私の仕事というのは、図書館とかアーカイブの端っこのほうをサポートというか支えていくというような仕事で、多少なりとも日本では珍しい仕事をやってきたことが、まあ珍しさで選んでいただいたんだろうとは思っております。

 藤野先生のお話を伺っておりまして、私実は来年の3月に還暦を迎えるんですね。もうそろそろいいのかなぁと思っておりまして、会社なんかだともうそろそろ肩をたたかれる位の年齢になってきているんですね。

 藤野先生のお話を聞いて思い出しました。今回の賞の最初の推薦をして下さった方が、今日は残念ながら時間が合わなくて来ていただけなかったのですが、国立国会図書館の副館長をやっていた安江明夫さんです。私に言わせれば戦友みたいな人なのですが、その方が最初におそらく私を推薦して下さったのじゃないかと思います。

 安江さんが、いつか何かのときに「私は生まれ変わってももう一回図書館員になりたい。それくらい好きなんだ。」とおっしゃっていました。藤野先生のお話を伺っていて、私は60歳になるのですけれども、折り返してももう少しがんばれるかなという感じが、今日はずっと諸先輩の方に元気をいただいているというそういう感じが致しました。

 もう少しこの仕事を続けさせていただければありがたいと思っております。皆様のご協力をぜひお願いいたします。今日は本当にありがとうございました。


〔附記〕推薦者・安江明夫様からの祝辞

 図書館サポートフォーラム賞ご受賞の4人の皆様に、心からのお祝いを申し上げます。藤野先生と末吉さんには、長年に亘り、ご指導、ご厚情を頂いてまいりました。それだけに今回のお二人のご受賞を、大変、嬉しく存じております。お祝いを申し上げますとともに、この機会に、これまでのご指導に対し、また図書館発展のための多大なご尽力に対し、深い感謝を申し上げます。

 そして次いで、資料保存器材の木部徹さん、です。

 会場には、あるいは木部さんの名前をご存じない方もあるかも知れません。しかし近年、図書館などで中性紙の保存箱が多用されてきていることは大方がご存知でしょう。そのコンセプトを日本で確立し、また実践に移したのが木部さんです。中性紙保存箱の理論的根拠になっている「段階的保存」や「容器」は木部さんの造語ですし、保存箱に使用する中性ボードの開発・普及に貢献したのも木部さんです。

 もう少し一般的に言えば、木部さんは、日本における現代紙資料コンサ−ベーションの理論を確立した立役者です。これは名論文「表紙は外れたままでよい」「利用のために保存する」等に始まり、『容器に入れる』『治すから防ぐへ』『目で見る「利用のための資料保存」』、さらに『IFLA図書館資料の予防的保存の原則』翻訳等へと続く数多くの著作にも表れています。

 その一方で、資料保存の新しい理論を実業化し、図書館等への支援として実践されてきました。それがかつてのCAT(Conservation And Technologies)という名の会社から、現在の(有)資料保存器材へと続いている実業開拓の道筋です。

 これらの理論と実践は、日本の図書館等に対する稀有な功績と言えるでしょうし、これだけで十分に高い評価と賞賛に値します。しかし広範囲に亘る木部さんの活躍のなかで、とりわけて重要な功績がもう一つあります。

 木部さんは、1980年代に、『CAP 本の保存のための海外ニューズ月報』を一人で編集・発行し、関係者に配布しておりました。無論、ボランティア・ワークです。関係者には有益かつ刺激的な情報誌として評価され、大変、有り難がられました。

 今、それがインターネットの時代に、「ほぼ日刊 資料保存」の名称で継承され、資料保存器材HPから発信されています。紙から電子へ、月刊から日刊へ、個人の努力からチームとしての取組みへと、内容も、手段も、規模も、飛躍的に発展しました。そして「ほぼ日刊 資料保存」は情報ニュース・メディアであるだけでなく、その迅速な紹介、的確な分析、濃い内容のレポートが蓄積されDB化されており、資料保存のエンサイクロペディアの様相も示しています。

 私は「資料保存に関わる人で「ほぼ日」を知らない人はモグリじゃないか」と冗談めかして言ったり、「必見・必読サイト」「プロならこれは知っていなければ」と言ったりしています。海外で活躍の日本人文化財保存関係者の間でも評判ですし、海外の日本研究図書館員の間でも重要な情報源として利用されています。

 もしこのサイトが英語版でしたら、きっと国際文化財保存修復学会のような国際団体から既に表彰されているのではないでしょうか。それほどに素晴らしい、インパクトのあるサイトですが、その主導者、編集長が木部さんです。

 木部さんには、日本の図書館と資料保存の今後の進展のために、引き続き一層、ご活躍いただきたいと願っております。そのお願いを申し添えて、お祝いの言葉といたします。

 木部さん、本日は図書館サポートフォーラム賞のご受賞、本当におめでとうございました。