茂原 暢 氏(公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センター センター長) 受賞のことば


茂原暢氏 公益財団法人渋沢栄一記念財団、情報資源センター長の茂原でございます。


 この度は栄えある図書館サポートフォーラム賞を情報資源センターにお授け頂き、誠にありがとうございます。

 特に、『渋沢栄一伝記資料』全68巻のデジタル化プロジェクトについて、その公開だけではなく、検索システムのようなバックグラウンドにも同等の重きを置き、ご高評をいただいたことは、私たちの大きな喜びであります。と申しますのは、デジタル版『渋沢栄一伝記資料』の公開に至るまで、実に12年もの作業が必要だったからです。

 世に言うデジタルアーカイブの多くは、「画像を見るためにメタデータを持たせたデータベース」です。一方で、デジタル版『伝記資料』は、インターネットを通じて書籍の版面を「ページ画像」として読むことが出来るとはいえ、全文検索を行うための40,000ページ分のテキストの塊が主体となっています。昨年「第一弾」として公開した57巻分の文字数は約4,000万文字となっており、その作成には非常に多くの労力が必要でした。また、『伝記資料』本編における「項目名>綱文>引用資料」という構造を再構築するためのデータ整備、ネット公開を行うためのサーバーの調達・システムの構築、そして何より著作権に関わる情報の調査と整理など、膨大な量の作業を行うための時間が必要でした。

 またプロジェクトの長期化が見込まれる中で、情報資源センターでは、デジタル版公開のはるか以前より、『伝記資料』のテキストを使いブログ・エントリーを作成して誰でも使えるリソースを提供する、財団内検索システムを作って内部的な研究支援を行う、時には配付資料のデジタルリソース一覧にあるようなスピンアウト・コンテンツを作成するなど、成果物を出し続けることで事業の継続性を確保してまいりました。

 今回の表彰理由には「以後の史資料の公開に際して、モデルとなる事例を構築」とありますが、渋沢栄一情報資源の発信だけではなく、情報資源センターの事業そのものに社会を豊かにするための価値があると認めていただいたことで、これまでのやり方は間違いではなかったと、あらためて確信を持った次第です。

 情報資源センターの役割は、この社会をより善いものとするため、渋沢栄一の経験や考え方に誰でもアクセスできるよう、「渋沢栄一を社会の中に埋め込むこと」、そして「埋め込むための器を作ること」です。そして、その実現のため、我々には「文化資源を作り出す」「ウェブサイトが閲覧室」というふたつのモットーがあります。私たちはこれらの役割を果たすために、社史の中に書かれている情報にアクセスするための「渋沢社史データベース」、錦絵の中から実業史に関する情報を抽出する「実業史錦絵絵引」、混沌とする社会に対して、道徳と経済の一致する場として実効性のあるモデルを提示するビジネス・アーカイブズ関連事業などを進めてまいりました。その中で栄一の事績を記録した『伝記資料』をデジタル化するプロジェクトは、情報資源センターのみならず渋沢栄一記念財団全体が持つさまざまな文化資源を「公共財化」する際に根幹となる事業です。

 今後は、著作権処理を行い本編の公開範囲を増やす、残る別巻を公開する、そして財団内外のリソースを集約することで社会とのつながりを深め、関連する文化資源、あるいは社会そのものをさらに豊かにすることを目標に事業を進めてゆきたいと思っています。

 最後になりましたが、今回ご推薦をいただきました先生方をはじめ、これまでにご支援・ご協力をいただいた皆様に、あらためて御礼申し上げます。また、渋沢栄一を社会の中に埋め込むと同時に、埋め込むための器も作ってきた情報資源センターのスタッフひとりひとりの長期にわたる努力と苦労に思いをはせ、この御挨拶を終えたいと思います。

 今後とも、ご指導・ご鞭撻の程をよろしくお願い申し上げます。