前園 主計 氏(元・山梨英和大学教授) 受賞のことば


前園主計氏 本日、身に余るこの栄えある賞をいただき、嬉しさに浸っているところです。本当にありがとうございました。

 最近、私が無性に腹が立ち、情けない思いをしている報道があります。「していない」と言っていた事柄について、「していた」証拠になる文書が存在したり、「見当たらない」と言っていた日報が見つかったりしているあのニュースです。問題の当人や当局の対応に怒りを覚えます。同時に、行政に携わる人びとが、文書の重要性やその保管整理法をあまり意識していない向きが窺え、呆れています。文書を含む記録物の保存や、その見つけ方を専門にしてきた図書館界の一人として、われわれの爪の垢でも飲ませたい気持がしています。

 ご存知のように、図書館のルーツは文書の管理にあります。5千年前、パピルスや粘土板に刻まれた記録物を、証拠として、あるいは流通の手段として保存し始め、その後その活用を図って発展してきたのが図書館です。ここに、たまたま4千年前の粘土板を持っていますので紹介します。これには、ある寺院に遺体を届ける際の連絡事項が書かれているようです。楔形文字で私は読めませんが、添付の説明書にそう書いてあります。多くの粘土板同様小さいですが、これもれっきとした文書です。

 記録物はその後、紙が主流となり、さらにいろいろな形状のものが出て参りました。図書館は、形状に応じてその保管や整理の仕方を考案し、内容を探す索引を工夫してきました。記録物の内容は、それを文書、メッセージ、データ、情報など何と呼ぼうと、必要な場合人びとに伝える知識であることを知っていたからです。人びとがその知識を起点に更なる展開を図り、文化を進めていることを知っていたからです。

 わが国ではこのところ、文書管理の在り方を再検討する動きが出ています。この分野で先駆的な役割を果たしてきた図書館界は、機会を捉えて、あるいは機会を創り、これまでのノウハウを社会に積極的に披露し、PRすべきだと思っているところです。

 過去数十年にわたり、私は産業界に対して資料つまり記録物の重要性を説き、資料室や図書館の役割をPRしてきました。私の勤務先の日本生産性本部が主として産業界向けの事業を展開していましたので、私もこの線上でビジネスマン向けの活動をしてきたわけです。私はこれまで、書籍を含め約350本の記事論文を執筆してきましたが、そのうちの約半分は産業界にいる人びと向けに書いたものです。

 私はビジネスマンに対して、資料の大事さだけでなく、資料整理の方法から活字の読み方まで説明し、さらにはそれが自己啓発にも繋がることも強調してきました。この活動の効果を証明することはできませんが、少なくとも執筆依頼が相次いだのは、対象にした人びとの関心を呼んでいたからだと思っています。人びとの念頭に「資料」の意識をある程度インプットできたと思っています。

 この度のこの賞は、こうした私の活動に対して与えられたものと受け止めています。この経験を踏まえて、図書館界の一人ひとりが、持っている思想や技術をもっと社会に発信するよう望みながら、私の挨拶を終えます。

 ご清聴ありがとうございました。