太田 浩市 氏(八王子市中央図書館館長) 受賞のことば


太田浩市氏 この度、名誉ある「第21回図書館サポートフォーラム賞」をいただいたことに、厚く御礼を申し上げます。本日は、どうしても外せない公務のため受賞式に参加することができず、大変申し訳なく残念に思いますが、このメッセージをもちまして皆様への感謝の気持ちを少しでもお伝えできればと願っております。


 改めまして、今回受賞のきっかけとなりました八王子市図書館の「八王子千人塾」について、もう16年前となりますが、発足当時のお話をさせていただきます。


 平成16年3月に、八王子市図書館では、子どもだけでなく、「いつでも、どこでも、だれでも」が読書に親しめる環境整備を図るため、「読書のまち八王子推進計画」を策定し様々な取組を進めることになりました。この計画には、高齢者へのサービス充実が明記され、具体的には、生涯学習のための「調べ学習会」や「読書会」などのサービスの提供を行うこととされていました。とはいえ、特に生涯学習は当時前例もなく、また、図書館の内部事務も開館時間の延長もあって人手が足りず、職場内では事業の具体化は困難と言われていました。

 そんな時、『クックとタマ次郎の情報大航海術―図書館からはじめる総合学習・調べ学習』という図書を偶然見つけました。この本は、主に小学生が総合学習に役立てることを想定した本でしたが、調べ学習に役立つアイデアがたくさん詰め込まれたものでした。また、著者である片岡先生自身も教壇で生徒たちに実践指導をされており、私は藁にもすがる思いで著者である片岡則夫氏に連絡をとり、お会いする機会をいただきました。この時、先生よりご紹介いただいたのが、講師をされている神奈川県座間市立東地区文化センターで開催されていた「あすなろ大学」という高齢者向けの生涯学習講座が、私が事業化しようと思っているものに近く、参考になるのではないかとのことでした。

 後日、事業化に向けて具体的なモデルを見ることができると期待に胸を膨らませて伺ったところ、その活動は私のイメージを遥かに超えるものでした。約40名の高齢の男女が、調べた結果をパワーポイントや模造紙にまとめ、発表や活発な質疑がなされるなど、とてもいきいきと楽しそうに活動されていたのです。

 早速、参加の動機やあすなろ大学の良い点、また、運営のポイントなどを参加者に伺ったところ、その中で最も多く出されたキーワードが「仲間」でした。これは「一朝一夕にできたものではなく、講座のカリキュラムの中で交流が生まれ、仲間ができ、その仲間がいるからこそ今の活動につながっている。そう簡単にできるものではないよ」とおっしゃる方もおり、講座のノウハウさえあれば実現できると思っていた私は、暗澹たる思いで帰途についたことを覚えています。

 図書館には、膨大な資料、会議室はありますが、個人の利用を前提としていて、利用者同士を結びつける機能を持ち合わせていませんでした。さらに、「調べ学習」という言葉も一般的にあまり馴染みがなく、「調べ学習講座」の設立のためには、どこから手をつけてよいのかわからなくなり途方に暮れてしまいました。


 そんな時、別件で八王子市の高齢者ボランティア団体の会長をなさっていた方にお会いする機会を得ました。何かヒントをいただけるのではないかと、思い切って高齢者向けに調べ学習講座の開催を検討していることを相談してみました。 すると、「最近の図書館は、貸出ばかりでレファレンスが軽視されているように感じるね。調べ学習講座はその点でも良いサービスなので、私も協力するよ。レファレンスは、一般の人には馴染みがないものだし、図書館の講座といってもあまり理解されないだろう。でも、これはとてもいいことだから、時間はかかると思うけどやってみるといいよ」とおっしゃってくださいました。

 その後、この方の他、窓口で熱心にレファレンスサービスを受けている方にも参加を呼びかけました。中には怪訝そうに立ち去る方もいましたが、調べたことがアウトプットできるという点がフックになり、7名の参加者に集まっていただくことができました。

 参加者の皆さんの経歴は、証券会社の元支店長、某製作所の元エンジニア、某名門都立高校の元国語教師、不動産会社の元営業マン、大手化粧品メーカーの元部長など、多彩で自己紹介をお聞きしているだけでも興味深い話も多く、参加者を互いに刺激し、自然に会話と交流が生まれたように思います。また、マンパワー不足の図書館にとって、千人塾のカリキュラムを終了した後、「あすなろ大学」のように自主運営組織として自立させるには、運営側に回ることに批判的な方もいらして、人間関係がギクシャクして苦労が多かったように思います。とはいえ、この方々たちは、組織運営に関する経験も豊かで、裏で様々なアドバイスをして下さり、そのおかげで無事、千人塾塾生の会を設立することができたのです。設立後まもなく、私は人事異動により、千人塾の運営に携わることはなくなりましたが、10年以上が経過して再び館長として図書館に戻り、千人塾および塾生の会が活発に活動を続けていることに大変感銘を受け、心から嬉しく思っております。


 本日会場にお見えの、塾生の会代表・大沼一夫様をはじめ、塾生の会会員の皆様はもちろん、立ち上げの際に多大なるご協力をいただきました片岡先生をはじめ、座間市のあすなろ大学の皆様、また担当業務を引き継いでくれた後任の職員達、そして、この取り組みを評価し、また応援してくださった図書館サポートフォーラムの皆様に、心より感謝申し上げます。そして、人生100年時代において「図書館でどう学び続けるか」という問いへの1つのロールモデルが今後もますます広がりを見せていくことを願いまして、ご挨拶に代えさせていただきます。ありがとうございました。