文学作品に見る造語(あて字)のいろいろ (3)「うるさい」
 
北川 和彦
 「うるさい」といえば「五月蝿い」「五月繩い」「煩い」が広辞苑から検索でき一般的ですが、文学作品には10種類以上のあて字がみられます。「五月」という月は「うるさい」反面「五月晴れ」(さつきばれ)で気分爽快ですね!
ゲタ字
 広津柳浪「変目伝」
其(それ)でなくッても、人の口は兎角−−い
夏繩い
 岡本勘造「夜嵐阿衣花廼仇夢」  黒岩涙香「善をなす勇気」
蒼繩い
 江見水蔭「女房殺し」
しもじみと嬉しく感じて、−−とも思わず    
 夏目漱石「こころ」
子供をただ−−いものの様に考えてゐた    
 福田英子「妾の半生涯」 北田薄氷「乳母」     
 吉行エイスケ「港の売春婦に関わる二つの挿話」
青繩い
 尾山篤二郎「草籠」
   
−−しと思い居しかど他人(ひと)の子のうるさき見れば偲びたりけり
懊脳い
 小栗風葉「寝白粉」
余り世間の口が−−ければ、と聞きし女湯の陰言を語りて
可煩い
 泉鏡花「湯島詣」    
畳を掻むしって転げ廻るのを、−−いと、抱主が手足を縛って
 
懶い
 田山花袋「田舎教師」 
 
煩瑣い
 夏目漱石「三四郎」
学問をする人が−−俗用を避けて、成るべく単純な生活に我慢する    
 二葉亭四迷「其面影」
又−−くそれを附足して
 
煩冗い
 森田草平「煤煙」
先生に対してはお−−くとも飽く迄弁解を好む者には候わねど    
 夏目漱石「門」
主人が口で子供を−−る割に
 
粉さい    
 中村真一郎「死の影の下に」
−−さい物音が絶えず耳許で続いていると
 
騒さい
 森山達也「激しい雨が」
わけがわからずTVが ただ−−くひびく♪
 
可厭い
 坪内逍遥「当世書生気質」    
ア −−、もうわかった
  【典拠】
『辞書にない「あて字」の辞典』(講談社文庫) 講談社
 明治期から平成初期の文学作品・新聞雑誌から歌謡曲までを収録。
『あて字用例辞典 名作にみる日本語表記のたのしみ』  雄山閣出版
 幕末・明治・大正・昭和初期から主として文学作品を収録(昭和教科書を含む)
  2004.6.29 UP
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■著者略歴
 北川 和彦(きたがわ かずひこ)
  【現在】EYEマーク音声訳推進協議会事務局長、音訳講座講師
【履歴】国立国会図書館司書監・視覚障害者図書館協力室室長、全国点字図書館協議会(日本盲人社会福祉施設協議会点字図書館部会)録音朗読委員会委員、JBS日本福祉放送ディレクター、日本点字図書館情報サービス課(現・奥村文庫)、厚生省委託図書選定委員、「朝日カルチャーセンター立川」音訳講座講師、切手の博物館図書専門委員
   

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