文学作品に見る造語(あて字)のいろいろ (4)「マッチ」
 
北川 和彦
 マッチを漢字で「燐寸」と書き「マッチ」と読むことは、一般化したあて字となっています。辞典の扱いは広辞苑(5版)では「マッチ」の見出しの項で、「燐寸」とありますが、大辞林(2版)では「燐寸ともかく」とあり、あて字についての扱いに違いがみられます。ある漢和辞典では、「燐寸は難読」としているのもあります。中国では、マッチのことを「火柴」と書きますが、読みは「フオチャイ」と中国語読みです。
附木
 浪華新聞
製は洋品(はくらい)の小の−−と同様で
早付木
 泉鏡花「風流後妻打
   
長火鉢の上なる神棚に、ぱっと−−−を摺って御灯(みあかし)を灯す
早附木
 坪内逍遥「此処やかしこ」
火鉢の引出しから−−を取だし
摺付木
 二葉亭四迷「浮雲」
   
その日活計の土地の者が、−−の函を張りながら
摺附木
 二葉亭四迷「浮雲」
手探りで−−だけは探り當てた
寸燐
 樋口一葉「にごりえ」    
悲しきは女子の身の−−の箱わりにして一人口過ごしがたく    
 夏目漱石「草枕」    
−−をシュツと摺る
 
 尾崎紅葉「今昔夜叉」     
甘糟、−−を持って居るか
 
燐枝
 若山牧水「別離」
−−すりぬ海のなぎさに み光る昼の日もと青き魚焼く    
 国木田独歩「死」
 
火燧
 泉鏡花「歌行燈」
−−々々、と女どもが云う内に、(えへん)咳を太くして、大きな手で
 
洋燧    
 永井荷風「あめりか物語」
先ず踵の高い靴の裏で−−を摺り、巻煙草をプーッと吹いて    
 坪内逍遥「当世書生気質」
−−の空箱、ひとふたみ
 
燧木
 渡部乙羽「露小袖」
おてふは、−−箱を貼り
 
燐燧
 須藤南翠「縁蓑談」    
−−はあだに折るヽのみ
 
洋火
 武田泰淳「汝の母を!」    
自分たちの品物である−−を、自分たちの故郷に取りにもどる
 
マッチ製造全盛時代のマッチラベル3点をご紹介します。
(1)「燧」でも「マッチ」の意味に使われていました。    
(2)は、軍関係のマッチ。日露大戦の戦勝を祝したものと思われます。    
(3)も、軍関係のマッチで、「軍人燐寸」といわれて発行されたもの。
 
  【典拠】
『辞書にない「あて字」の辞典』(講談社文庫) 講談社
 明治期から平成初期の文学作品・新聞雑誌から歌謡曲までを収録。
『あて字用例辞典 名作にみる日本語表記のたのしみ』  雄山閣出版
 幕末・明治・大正・昭和初期から主として文学作品を収録(昭和教科書を含む)
  2004.7.26 UP
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■著者略歴
 北川 和彦(きたがわ かずひこ)
  【現在】EYEマーク音声訳推進協議会事務局長、音訳講座講師
【履歴】国立国会図書館司書監・視覚障害者図書館協力室室長、全国点字図書館協議会(日本盲人社会福祉施設協議会点字図書館部会)録音朗読委員会委員、JBS日本福祉放送ディレクター、日本点字図書館情報サービス課(現・奥村文庫)、厚生省委託図書選定委員、「朝日カルチャーセンター立川」音訳講座講師、切手の博物館図書専門委員
   

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