同姓同名同字(2)
北川 和彦
 以前に「同姓同名同字 一人のGoethe 八人の鈴木健二」を紹介しましたが、今回は「同姓同名同字」の上、しかも同一人という、換言すれば7つの読みを持つ(持たされたというほうが正確か)人物を紹介します。著名な作家「水上 勉」がその人です。まずは読みを列挙してみよう。
1 みなかみ べん (東京の友人)
2 みなかみ つとむ (著者の奥付) 現在は「みずかみ つとむ」
3 みずかみ つとむ (出身地若狭の人々)
4 みづかみ つとむ (学生証)
5 みずあげ つとむ (友人)
6 すいじょう べん (柴田錬三郎)
7 スイシャン メン (中国の友人・中国読み)
 水上勉は、作家としてデビューした当時は「みずかみ つとむ」であり、著作権台帳(通称文化人名録)が証明している。ところが著名になるにつれ、世間は「みなかみ」と呼んで親しみを増していったようである。関東では「みなかみ」は「どこやら北の温泉地を連想して不快とまではいかぬが複雑な気がすることがある」と本人が語っている。
 ご本人は、読みには特にこだわっていなかったようであるが、そのことが後に迷惑なことが起ころうとは、夢にも思われていなかったようである。
 ことの顛末は意外と多く発生した。本人が入学した立命館大学の学生証が大学の倉庫から発見された時、名前に「みづかみ つとむ」となっていたことである。証明書の末尾に「学費滞納につき除名」とあるのを見て悲しかったが、「みづかみ つとむ」とルビがふってあるのが、なつかしくてたまらなかったと回想している。
 また、「みずあげ つとむ」と友人に呼ばれた時は反論もしたくなくなったそうである。
 「すいじょう べん」にいたっては、柴田錬三郎が横山隆一の逸話を紹介して使った読みで話題になったというが、詳細は省略します。
 二人の別人「水上 勉」  
 同姓同名同字の「水上勉」(別人)もいました。関西の呑み屋に借金して歩いた男である。ゆきもせぬバーや料理屋から請求がきて判明した。水上先生が新聞テレビに出るようになってから請求書は来なくなったという。映像時代のおかげで役に立つこともある。  
 もう一人、作詞家で詩人の「水上勉」。有名な歌手の作詞家で、間違って演歌作詞の注文が来たという。ご本人が調べた結果、千葉県出身でご本名。「みなかみ べん」と読むそうです。  
 「みずかみ」か「みづかみ」か?  
 以上でお気づきかと思いますが、「みずかみ」「みづかみ」と二通りの仮名表記がでてきます。ご本人は、若狭の出身地では「みずかみ」、学生証は「みづかみ」、現在ご本人は「みずかみ」でゆきたいと思っておられるそうです。  
 「ず」か「づ」については、他にも次のような同様な例があるのでご紹介します。
「穂積重遠」 ・・・ 「ほづみ しげとう」(広辞苑第5版・大辞林3版)
  ・・・ 「ほずみ しげとう」(人名事典)
<本稿は「姓名のこと」(岩波書店「図書」1987年2月号)を参考にしました>
2005.5.25 UP
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■著者略歴
 北川 和彦(きたがわ かずひこ)
  【現在】EYEマーク音声訳推進協議会事務局長、音訳講座講師
  【履歴】国立国会図書館司書監・視覚障害者図書館協力室室長、全国点字図書館協議会(日本盲人社会福祉施設協議会点字図書館部会)録音朗読委員会委員、JBS日本福祉放送ディレクター、日本点字図書館情報サービス課(現・奥村文庫)、厚生省委託図書選定委員、「朝日カルチャーセンター立川」音訳講座講師、切手の博物館図書専門委員
 

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