第9回 図書館サポートフォーラム賞講評

第9回図書館サポートフォーラム賞 山崎 久道 表彰委員長講評

 山崎でございます。先ほど代表幹事の末吉さんの方からお話があったように、突然、この役を井上先生からお預かりしました。講評をする羽目に陥ったということで、少し恨みがましい思いがあるんですけれども、ご命令ということで、一も二もない話ですので、お話したいと思います。不十分ではございますけれども、何分にもおめでたい席ということですので、それに免じて不手際はお許しいただきたいと思います。


 今回ご案内のとおり、3組の方が受賞されて、真におめでとうございます。その陰には非常に大変なことがございまして、全部で十件の推薦を受けました。

 内訳が、個人を推薦してくださったのが五件、それから機関・組織・団体を推薦してくださったのが五件。推薦の条件に個人であるか団体であるかをはじめから指定していなかったということで、もちろん全部審査対象にいたしました。

 表彰審査の委員会は先ほど幹事のほうからお話がありましたように、昨年度の二月、この二月ですが、日外アソシエーツで開きました。そのときにこの十件を対象に審査を行ったんですけれども、いずれ劣らぬ非常にすばらしい業績で、非常に審査は難航というか、議論になりました。

 そのときにひとつ議論として皆様にご報告しておかなければいけないのが、やはり個人と団体の問題をどのように考えるかということです。

 これはもともと明確になっていなかったということで問題があるとは思うのですが、やはりこの賞は末吉代表幹事が言われたように、夢をかなえてくれた人たちを表彰しようですとか、あるいは社会に対して有効な提言をしてくださった方を表彰しようですとかいうことからしますと、やはり個人といいますか、顔の見える方を我々としては表彰したいという意見が強くございました。結局最終的に、この御三方に賞を授与させていただく、というふうに決まったわけでございます。

 そういうわけで本当は全員に賞をさしあげたかったのですが、予算の限りがあるということで、すばらしい御三方を祝福させていただく、ということをまずご報告申し上げたいと思います。


 それで今日は、最前事務局のほうから届いた資料を見ていただきながら、とても私がこんなことを申し上げる役柄ではありませんが、一応、お役目ですので簡単なご紹介とコメントをさせていただきたいと思います。

 まず、「第9回図書館サポートフォーラム賞受賞理由」という資料がございます。御三方のお名前を私がフルネームで読ませていただきますけれども、これは国立国会図書館の、書誌データベースのほうに仮名ふりがしてありますので、私がもし間違えたら、これは国立国会図書館のせいでございますので、お許しください。

 まず、平井紀子さん。

 元文化女子大学図書館司書長。服飾の専門司書として長年にわたって実務に携わり、大学図書館の責任者として後進の指導にもあたられた。さらにその活動の中から、目録、索引、文献解題等ドキュメンテーション活動に励まれた。特に池田文庫の資料を対象に世界各国の服装を平易な文章で解説した『解題集』はわが国初の試みとして評価され、図書館司書としての新しい領域を築いた。

 ということで、平井さんについての資料は別に綴じたものを準備させていただいております。これを見てまたあとで申し上げたいと思います。

 それから二番目、水谷長志さん。

 東京国立近代美術館主任研究員。美術図書館の活動ならびに美術館やアートにおける情報システム、ドキュメンテーションでの先進的な取り組みを通じて斯界の発展に貢献するとともに、さまざまな関連団体の立ち上げや運営に尽力された。それを通じて、この分野の重要性を社会に知らしめるとともに、活動の国際化にも貢献された。

 水谷さんについても同じく資料を添付してございますので、それもご参照ください。

 それから三番目でございますが、松岡資明さん。

 日本経済新聞文化部編集委員。ジャーナリストの立場から、一貫して図書館やアーカイブズの重要性とその社会的意義につき紙面を通じて訴えてこられた。そのことを通じて、こうした機関や機能の社会的認知と正しい理解を大きく推進し、また図書館やアーカイブズで働く人々に社会への目を向けさせるとともに、関係者を力強く鼓舞された。

  こういうことでございます。
  この御三方の業績を紹介させていただきます。


 最初の、平井紀子さんの資料をご覧いただきますと、主要論文記事、その他等々が載せられております。翻って考えてみれば図書館というのは、非常に重要な専門性を発揮する場所であると思っているわけであります。けれども最近見ますと、このような活動がどうもすこし低調なのではないかと思います。インターネットに押されているところがあるのかもしれませんけれども、それ以上に図書館員自身の勉強不足ですとかそういうところもあるのではないか、というところがすこし気になります。

 その意味で、平井さんは実に丹念に情報を調べられて、見事な解題をお書きになっている。図書館員はこのようにやはり情報発信を社会に対してするべきなのではないかというひとつのお手本を示されたのではないかと思います。

 たとえば添付されている、トルコの服飾について、ダルヴィマールという方の絵についての解説ですが、それを私もそれを読ませていただきましたけれども、皆さんもお読みいただくと分かると思います。これはもう専門の歴史学者が書いたんじゃないかと思うぐらい、本当に丹念で行き届いて、しかも、確固たる文化や文明に対する理解というものを感じさせていただくことができたと思っております。
 そういう意味でむしろ、その辺の歴史家よりずっと素晴らしいものを書かれたのではないか、私も昔、経済の歴史をちょっと齧ったことがあるのですが、そんな気がいたします。

 忙しい大学図書館の仕事の合間と言っては大変失礼でしょうけれども、それなのにそのような仕事を行うということ、特に図書館員として、目録とか索引とか文献解題という、資料の組織化といいますか、いわば本業のところで、そういう重要な業績を残された。しかもそれが、資料の文章を読んでいただければ分かるように、誰が読んでも理解できるように書いてあります。別に図書館の専門家でなくても、一般の人が読んでも非常に分かりやすい。史料について非常にきちんとわかりやすく解説なさっている、ということです。大変素晴らしい業績を残された。それ以外にも後進を育てる、あるいは図書館のマネージャーとしてやってこられた。そのことに敬意を表します。おめでとうございました。


 それから、水谷長志さんでございます。
図書館というと、やはり第一の対象はテキストであり、書かれた文字であるというところがございます。
 それに対して水谷さんは、アートとか美術に対して、これをきちっと図書館情報学の心をもって取り扱って、きちんと整理していく。しかもそれを後世に残していく、そのための社会的な仕組みや装置を開発してこられた。あるいはそれをご自身だけではなく、ネットワークを含めて、同好の士やそういう人たちと有機的な連携をとって進めてこられた。非常に素晴らしいことだと思います。しかも単に日本国内だけではなくて、海外的、国際的にも通用するような流れというものを構築されている。その意味で、アートに関するドキュメンテーションや情報システムや、そういうことについての、まさに権威者になっていらっしゃるのではないかと思います。

 それと同時に、昨年の十月に、IFLA東京大会20周年の会を図書館サポートフォーラムの行事として行いましたが、そのパネリストのお一人として参加をしてくださいました。そのとき、東京大会を契機にして、アートドキュメンテーションの本格的な活動をはじめた、あるいは日本におけるアートドキュメンテーションの推進者になったんだと、こういうふうなことを言っておられました。まさにそのような国際的な会議や催しというものを契機として、御自身のキャリアを伸ばすと同時に、しかもそれを日本の専門的な人々の中でひとつの大きなうねりとして作り上げられた。ということで、高い評価を与えることができるのではないか、という風に私たちは考えたわけでございます。そういうことで、水谷さんのアートドキュメンテーションにおける仕事、または図書館情報学の専門家として問題に取り組んだ姿勢というものを高く評価させていただきました。おめでとうございます。


 三番目になりましたが、松岡資明さん。大変有名な方で、私たちは日経新聞の紙面で松岡さんの書かれた文章を、いつも読ませていただいています。そのなかで、松岡さんは表彰理由にもありますように、なかなか社会において日があたらない、図書館やアーカイブという世界に対して、非常に有効な応援といいますか、本質を見抜く議論をされていたのが非常に大事なことだと思います。図書館やアーカイブに関して日本は遅れているとかそういうことでなく、なぜ遅れているのか、それが日本の社会にどういうマイナスをもたらしているのか、ということに切り込んで、鋭く提言なさっています。そういう国は文化的に貧しい、いくら経済的に発展しても一流の国ではない、ということを松岡さんの書かれたことから私たちは感じることができる。

 ということは、きっと松岡資明さんの書かれた記事を読んだ日経新聞の読者なら、みんな感じてくれるに違いない。きっとそれはおそらく日本の図書館や文書館や、そういったものに対する一般の人々の理解を、大きく展開させてくれる契機になり得るのではないだろうか。そういうふうに思います。私たち図書館の中の人間がそういうことを言うのも非常に大事なのですが、松岡さんのようにその外側から中立的な目で見て、あるいはある部分は一般人的な角度から言ってくださるということは、私たちにとって大変有り難いことでありまして、私たちは松岡さんの激励に応えていい仕事をしていかなければ申し訳がないという気がしているわけでございます。そういうわけで、今回このような賞をとっていただいて、いっそう健筆を奮っていただけると、ぜひ期待をしていきたいと思います。

 その意味で、今回ひとつだけ追加的に申し上げますと、『情報の科学と技術』という雑誌がございまして、その最新号に、図書館とアーカイブズについて、松岡さんのお書きになった文章がございます。これはたいへん物事をよくまとめて、私はこれは図書館やアーカイブズで働いている人間にとっても参考になる部分が多いだろうと思いますので、ぜひご一読をお薦めしたいと思います。こういう私たちの専門の世界の雑誌にも記事を書いてくださったということは、たいへんありがたいことだと私は考えております。どうもおめでとうございました。


 私の個人的な意見を言いますと、この御三方は図書館に非常に深い愛情を持っていらっしゃると感じました。しかし愛情だけでは物事は成り立たないわけでして、それがうまくコントロールされた愛情だということです。結局何をしなければいけないかということを冷静に分析された上でそれぞれにお仕事をなされたと、そういう印象が非常に強いわけです。そういう意味で、見事にコントロールされた愛情だと思います。つまり平井さんと水谷さんは図書館の内側から、松岡さんは外側から、図書館に対していろいろな思い入れを持ちながら、そのなかでなすべきことをやっている。

 そしてさきほど末吉代表幹事のほうからも、社会との繋がりの問題というもののお話がありましたけれども、まさにその点でも私は、御三方がそれぞれ社会との関わりを常にお考えになっているのだというふうに感じました。

 たとえば平井さんの文献解題にしても、文献解題なんて図書館員が読めばいい、そういう姿勢は全くなく、これは全ての服飾に関心のある人に読んでほしい、そういう姿勢が明白です。社会のなかで何を訴えていくのかという姿勢を自分から目指していらっしゃる。わかりやすい、しかし正確さをもちろん失わない、そういう記述をしていらっしゃる。

 それから水谷さんについても、アートドキュメンテーション、これは比較的地味な世界ですが、美術や作品も、保存や保管あるいは継承や整理・組織化ということがいかに大事かということを常に体現をしてくださっている。その意味で図書館のみならず、アートや美術の世界、そして社会に非常に大きな影響を与えてくださっています。

 そして松岡さんについては、先ほど申し上げたように、まさに図書館や美術館に対する社会の見方を、ある意味でコペルニクス的転換をさせる契機になるかもしれない。ぜひそういう転換が起こってほしいです。図書館というのは目立たない仕事で、知るひとぞ知るもの、アーカイブズなんてものは日本では流行っていない、なんていう議論があるなかでですね、それは間違っていると。中国、韓国、アメリカ、そういったところと比べても日本は情報ストックという点では非常に遅れているわけです。それを社会的に展開させる契機にしていけるかもしれないということで、やはり社会との繋がりのなかで持論を述べてくださっているわけです。

 そういう意味で、まさに御三方は社会的な部分でのコンテキストの中で、素晴らしい業績をあげてくださったと理解をしております。

 それから最後になりましたけれども、この図書館サポートフォーラム賞は今回で第9回目になりましたけれども、これに関しては、日外アソシエーツのお力添えと協力があったということで、賞の内容もそうですけれども、賞それ自体を続けていくということもたいへんなことでございますので、あらためて、そのことに感謝をさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

 というわけで今日は、若干の個人的な感想も入りましたけれども、御三方にお出でいただき、表彰について選考経過をご報告申し上げました。どうもありがとうございました。


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