お祝いの言葉:松尾浩也氏(法務省特別顧問・東京大学名誉教授)

 ご紹介いただきました松尾浩也でございます。今日はこの第13回図書館サポートフォーラムにお呼びいただき、お祝いの言葉を述べる機会を与えられまして、光栄でありますとともに恐縮に存じております。

 受賞された三人の方のうち、高山さんの仕事については直接に知っておりましたが、他のお二人については、今日ご説明をいただき、また本人方のお話を拝聴しまして、河塚さん、飯澤くん、それぞれ大変立派な仕事をされ、優れた業績であって、まさに表彰に値すると思いながら、お話を聞いた次第であります。

 このように言葉を述べるのは大変恐縮だと申しましたが、ご列席の皆さんは図書館の仕事について非常に精通しておられ、長い間図書館の仕事をして来られた方も少なくない、相撲の番付で言えば、横綱、大関のような方たちの集まりです。一方、私はその分野で何も足跡がない、いわば幕下のようなものでございまして、どうやって高い所からお話をすればいいのか、非常に恐縮する次第でございます。

 ここに出席しましたのも、もっぱら高山さんとの関係でありまして、先程お話にありましたように、ちょうど10年前の平成13年春、私は法務省で特別顧問に就任しました。私より先に民事訴訟法学者の三ヶ月章先生が、やはり特別顧問になっておられまして、特別顧問が二人に増えました。法務省ではこの機会に部屋を作ろうということになったようです。桜田通にある赤レンガの明治28年に出来たという古い建物、そこに「特別顧問室」が出来ました。

 部屋ができてみるとやはり忙しなく、秘書が任命されることになりました。特別顧問二人の平均年齢は、その当時75歳でありました。秘書にも相当貫禄がなくてはということになりまして、法務図書館を定年退職しておられた高山さんが選ばれ、特別顧問室秘書になられました。先程のお話からもわかりますように、高山さんはダンボール42箱と取り組むつもりでおられて、そこに併せて特別顧問二人が入って来た訳です。高山さんの関心はその後10年間、42対2の割合でダンボールの方に向いていた訳です。

 今回も、「こういう表彰制度があるので、私の仕事が表彰に値すると思えば、推薦状を書いて下さい、思わなければ書かなくて結構です」というのが高山さんからの話でした。私は推薦に値すると思いました。早速パソコンに向かって推薦状を書いた訳です。その後、かなり時間が経って、半ば忘れかけていましたら、最近になって「表彰の対象になりました、ついては4月11日に式典がありますので、それに出席して下さい」と言われました。出席すると答えましたが、今度は3日程前に、式典に出たらお祝いの言葉を述べるように言われ、それはないでしょうと思いながら今日に至った次第です。

 私が図書館というものに、強い関心を抱いたことは何度かあります。その第一は、昭和29年の春、私は東京大学の助手に任命されました。辞令をもらいまして、その足で図書館を見学させるということで連れていかれたのが、法学部の付属図書館でありました。当時はエレベーターもなく、階段を上って私の専門である刑事訴訟法の書棚に行きました。そこには、今まで名前を聞いただけの、あるいはちょっと見ただけのドイツ、フランス、イギリス、アメリカなどの専門書が配置されておりました。本当に、宝の山に入ったという感じがしました。

 それから約10年がたちまして、私はフルブライト研究員に選ばれ、アメリカのミシガン大学で勉強いたしました。そこにも立派な図書館がありましたが、それ以上にそこで認識しましたのはライブラリアン、図書館員という人たちが大きな仕事をし、また尊敬を受けているということでした。今日もお話を聞いておりますと、河塚さんは大学で専門に講師をされているようですが、ミシガン大学でもライブラリアンは、教授たちと対等の立場で議論をし、学生に対して法律の文献の扱い方を指導していました。非常に優れた人たちで、いろいろな国から来た留学生たちにも熱心に対応していた姿を今でも思い出します。

 日本に帰りまして私は、駒場の教養学部で教えていましたが、その後本郷の法学部に移りまして、定年まで勤めました。同じ所にだけおりますと経験が限られたものだけに終わってしまいますが、定年後、上智大学や慶応大学に非常勤講師としてお世話になりました。図書館も利用させてもらいましたが、図書館というのはそれぞれに特色を持つと感じました。

 時代の変化の中で、図書館業務も、変わってきたと思います。昔の図書館は、司書の人たちは静かに整然と並んでいましたが、今の図書館では司書の方が自ら動き出しているという感じがします。かつては植物のような印象でしたが、今ではむしろカゴから出された鳥のように、あるいはウサギのように跳ね回るのが、新しい司書の姿ではないかと思われます。

 今日はこういう会に伺うことが出来て、大変有難く思っております。皆様のますますのご活躍を祈りまして、お祝いの言葉とさせていただきます。