講評 水谷長志 氏(表彰委員会委員長)

 表彰委員長の水谷と申します。表彰についてご報告いたします。

 今回は推薦によって8件8名の方が表彰選考に挙がりました。この数は例年とほぼ同数であるのですが、今年も図書館員、あるいは図書館を外からサポートするお仕事をされている方々の中から、とくに優れた業績をお持ちの方達でした。

 正直な感想としては、今回受賞されるお三方に限らず、選考に挙がった人全てに表彰を受けていただきたかったというのが私の本音であります。

 しかしながらこの図書館サポートフォーラム賞というのは、表彰委員会の規定により上限3名ということになっておりますので、今回は2月23日に日外アソシエーツの会議室におきまして13名の出席幹事の投票と、3名の欠席幹事の投票で決めさせていただきました。

 その結果選ばれたのが、こちらにお並びの稲葉洋子様、金沢幾子様、奥出麻里様のお三方となりました。


 まず稲葉洋子さん。この3月に神戸大学附属図書館をご退職されましたが、その受賞理由を読み上げさせてもらいます。


 1995年1月17日の阪神・淡路大震災を機に神戸大学図書館は被災地の図書館の責務としてこの震災に関わるあらゆる資料を網羅的に収集する「震災文庫」を立ち上げ、一般公開した。その発足から事業の中心的存在として陣頭指揮を貫徹し、網羅的収集・保管・保存からデジタルアーカイブの構築、そしてWebへの情報発信までをリードした功績は、2011年3月11日の東日本大震災以後のいわゆる震災アーカイブの先例となり、よきモデルを提示することにもなっている。このような「震災文庫」の今後の継続発展への期待をこめつつ、その意義を高く評価し表彰するものである。


 先ほど山崎先生もおっしゃられましたが、ちょうど1年前の第13回図書館サポートフォーラム賞表彰式は、4.11すなわち4月11日だったんですね。まったく同じこの部屋で行われたわけなのですが、3.11から1ヶ月経った後だったにもかかわらず、余震が続いて表彰式を中断せざるを得ず、非常に怖い経験をした記憶が鮮明に甦ってきます。

 東日本大震災を記憶するプロジェクトというのは、今様々な形で進んでおり、そこに従事する人達はいずれも稲葉さんたちが神戸大学で展開した震災文庫を1つのモデルにして、その意志を継ごうとしているように思われます。

 その意味で誠に先見の明があり、果敢かつ大胆な稲葉さんの仕事には、選考にあたったほとんど全ての幹事は一票を投じたように私は記憶しています。

 私自身はこの会場からすぐ側の竹橋の国立近代美術館に勤めておりますので、当然のことながら国立の美術館とか博物館の活動については大きな関心があります。

 稲葉さんは神戸大学でのお仕事が長いわけですけれど、別な場で、例えば国立民族学博物館のサービス課長もされていたこともあります。名館長であり、博物館のことを「博情館」と呼んだ梅棹忠夫さんの下でライブラリアンの仕事をされていたことも、前々から私は深い敬意を感じておりました。その意味で震災文庫の活動とともに、この点についても表彰しておきたいと思います。


 お二人目は元一橋大学附属図書館に勤めておられた金沢幾子さん。その受賞理由についても、同じように読み上げさせてもらいます。


 1973年から2004年3月末日まで一貫して一橋大学の図書館員として勤務。経済学はもとより広く社会科学全般にわたる文献を知悉して、天野敬太郎の『河上肇博士文献志』を範としながら河上の先輩であり日本近代経済学のパイオニア的存在の福田徳三を対象とし、一橋での奉職の約30年のうちの20年余の歳月をかけて関係資料を博捜かつ綿密な考証を重ねて、対象人物の生涯に迫る、まさに「福田の伝記的書誌」を900ページに迫る大冊にまとめあげた。本書誌は福田研究に資するのみならず、社会科学文献書誌の理想形を示しえた点においても意義あることとして高く評価し表彰するものである。


 書誌編纂を主たる業績としてこの図書館サポートフォーラム賞を受賞されたのは、昨年第13回の地方史文献の飯澤文夫さん、あるいは第11回の寺田寅彦書誌の大森一彦さん達がおられますけども、それらの方々に続くのが金沢さんのお仕事だと思います。

 私自身は大学で図書館学を講義していますけども、年々書誌の価値とか、その力を学生に教えるのがとても難しくなってきています。それは実際に紙に書かれた書誌を手にして、情報を探すという体験をしている学生が、学部生だけでなく院生についても非常に数が少ないために、書誌を作るとか書誌を編む困難さ、あるいはそれよりも大きな喜びというものがなかなか伝え難くなっていることにあります。

 そういう時代にあって天野敬太郎先生の遺業に沿うような書誌が誕生したことは、一種の奇跡を感じます。最後にこの書誌は多くの文献を集めたとか、網羅的な書誌であるということも重要ですが、それを超えて一つの人物文献書誌としてあるべき道を示しえたことについて、私は個人的にも高く評価したいと思います。


 三人目に奥出麻里さん。現在は千葉メディカルセンターの図書室に勤務されていますが、その受賞理由について、読み上げさせてもらいます。


 病院図書室研究会(現日本病院ライブラリー協会)副会長、日本医学図書館協会評議員、同病院部会幹事などの役職をこなすとともに、保健・医療系図書館員「みんなでつくる」デスクトップ LITERIS(http://literis.umin.jp/)の編集長から、好著として名高く版を重ねる『図解PubMed の使い方 インターネットで医学文献を探す』(日本医学図書館協会、2001-2006-2010)の共著、さらにヘルスサイエンス情報専門員(上級)を取得するなど、ワンパーソン・ライブラリーの病院図書館を切り盛りする中で展開されてきた、その旺盛な組織、執筆、講演等の活動と姿勢は、後進への力強い励ましとなっていることを高く評価し表彰するものである。


 近年病院図書室というものが非常に注目を浴びてきていることは、皆さんもよくご存知だと思いますが、いわゆる医学図書館と深い関係にありながらも、今日それから独立した領域というか、新たな専門図書館のベースを築いているように思えます。

 私自身はここ数年専門図書館協議会の機関誌『専門図書館』の編集に携わっておりますが、その編集委員にも病院図書室の方がいらっしゃいます。お話を聞くと、やはり病院図書室の多くは一人で切り盛りするワンパーソン・ライブラリーであり、ワンパーソン・ライブラリアンである。ワンパーソンであるがゆえに他の館であるとか、他の病院図書室とのネットワークを築くことに非常に熱心、あるいはそうすることの必要性が切実であるように見受けられます。おそらくはその素地を育てられたのが、奥出さんを始めとする病院図書室のパイオニアの方々だったのではないかという風にお見受けいたします。奥出さんの幅広い活動が後進への力強い励みになってきたと感じられてなりません。

 以上が今回壇上におられるお三方の表彰理由ですが、とくに私自身が感じるのは専門図書館の世界が最近若干元気が無いという印象がありますので、今回お並びのお三方、あるいは奥出さん達のように後進を引っ張るライブラリアン達がもっともっと表面に現れていくことが必要ではないかと感じますし、その一翼を図書館サポートフォーラムが担えればと思っています。

 それから冒頭お話ししましたけど、この図書館サポートフォーラム賞というのは、図書館員だけを対象とするのではなくて、図書館を外からサポートするようなお仕事をされている人も表彰する賞だと私自身は考えております。これまでの歴代の受賞者もそういった方々がおられたと思いますし、今回はたまたまお三方とも図書館の現場で図書館員をされてきた方ではあるのですが、今回の候補の8名のうち3名は図書館の外から図書館をサポートしている方達でした。ですので今後も図書館サポートフォーラム賞というのは、ライブラリー・サポート・フォーラムの賞ですから、図書館員もそうですし、図書館を外からサポートするようなお仕事をされている人を表彰していきたいと思っていますので、広く図書館に関わる仕事をされている方をぜひ皆様から推薦していただきたいと考えています。

 簡単ではありますが、以上をもちまして受賞者の講評とさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。