佐野三樹雄 氏(岩瀬文庫ボランティア 代表) 受賞のことば


第15回 LSF賞 岩瀬文庫ボランティアの佐野三樹雄と申します。本日はこのような晴れやかな席へお招きくださったことに、まずもって心からの御礼を申し上げます。

 しかしながら私の心はただいま複雑でございまして、大変嬉しいのですけれども、『何と場違いの所に来てしまったことか』と震えております。と申しますのも、これまでの受賞の皆様とその業績が、とてもご立派なことを知ってしまったからです。

 そこで本日は助っ人二人を連れて参りましたので、紹介をお許しください。天野進さん、日晃さんです。天野さんはわがボランティアの初代代表、日さんは古参役員です。また、岩瀬文庫の蔵書を少しでも読みたいと組織した「岩瀬文庫同好会」の、天野さんは永代塾長、日さんは漢詩・漢文学部長であります。なお、天野さんの持っている旗は、岩瀬文庫開設100周年の記念展示会の際、私達が作った団旗のようなものです。あしらっておりますのは、岩瀬文庫創設者・岩瀬弥助翁が制定し、かつて岩瀬文庫のあちらこちらに輝いていました、岩瀬文庫の紋章です。

 さて、どうご挨拶を申し上げたらよいか、心乱れておりますが、今回の受賞は、まだどこにも図書館など無かった明治の昔から続く岩瀬文庫、そしてそれを私費・独力で創り上げた岩瀬弥助という人物を、「ユニークで社会的意義がある」と感じられた本フォーラムの先生方が、岩瀬文庫のような学者先生や一部の古典籍好きな老人しか寄り付かんような博物館でボランティアなぞをやっている変わり者集団を、代わりに表彰してくださったのだと受け止め、岩瀬文庫と岩瀬文庫ボランティアのことを少しお話して受賞の弁とさせていただきます。

 私達のまち西尾市は、愛知県の中ほど三河湾に南接したまちで、私達が世界に誇る岩瀬文庫は、ここにあります。西尾市に北接して徳川家康生誕の岡崎市が、さらにその北に世界のトヨタの豊田市があります。

 岩瀬文庫の蔵書は8万とも10万とも言われますが、現在、名古屋大学の塩村耕先生のご尽力で、開設以来初めての悉皆調査が行われており、今年で13年目になります。その成果は「岩瀬文庫古典籍書誌データベース」として岩瀬文庫ホームページより公開されていますので、ぜひ御覧ください。

 私達岩瀬文庫ボランティアは結成9年目。毎月、定例的な作業はご報告のとおりで、時々この他に、特命的作業があります。昨年は「お化け屋敷(怪談ナイトin 岩瀬文庫)」で、小さい子を泣かせてしまいました。活動の一端として「にしお本まつり」と私達についてお話させていただきます。

 わが西尾市では毎年10月、会期2日間の「にしお本まつり」を開催しており、今年で8回目になります。これは文字通り「本」のお祭りですが、最近では6、000人を超す人が来てくださいます。私達もこれに、出展者として関わってきました。

 初めは、岩瀬文庫と、新しく始まったこの祭りを、市民に知ってほしいと考えました。市内の商店から包装紙を頂き、岩瀬文庫蔵書『秘伝千羽鶴折型』から「妹背山」という比翼の鶴を折り、台紙を付けて各商店に飾って頂きました。また包装紙を表紙にしたミニ和装本を作るコーナーも開きました。

 3年目、「お客さんを閲覧室に入れよう」と、『岩瀬文庫に君の名を』作戦を展開しました。お客様に、ちょっと敷居の高い閲覧室にお越しいただき、蔵書の保存箱をつくり、古典籍を格納し、箱に署名していただく(私達の通常の作業でも日付とサインを残しています)。そして最後に、箱に入れた本の請求番号を書いたカードを記念にお渡ししながら、こう言うのです。「100年後でもあなたの作った保存箱を岩瀬文庫が責任をもって保管しています。恋人ができたら、おばあちゃんになったら、この紙を持ってここにいらっしゃい。あなたの筆跡が待っていますよ」。これ、なかなか高校生に人気なのです。図に乗って2年もやってしまいました。

 5年目になり、私達の気持ちは、市民に閲覧室で実際に文庫蔵書を楽しんでほしい、に高まりました。「岩瀬文庫で猿は見たけど、本は知らんなぁ」、これが宝物に対する、普通の市民の感想です。私達もそうでした。それを少しでも破りたい。岩瀬文庫は創設者の遺志で、一般の人にも本物の蔵書を見せる文庫なのですから。作戦名「ミニミニ閲覧室」です。保存箱づくりをやりながら、私達が素人目にも楽しめた本を、30冊ほどピックアップして、解説を作り、お客さんに見てもらうのです。初年度、汗だくの対応でした。今3年目、来場者92名、対応はやや余裕です。今までの人気は、きれいな絵本『伊勢物語』、色華やかな花や草を描く『花卉百種』、皆が題名は知っている『東海道中膝栗毛』、明治の本ですが『風俗画報臨時増刊号』。この本の三陸沖大海嘯被害録の挿絵のリアルさは、東日本大地震のあとだけに、かなりの反響を呼びました。

 「われかつて一小文庫を設立し、これを身にも人にも施し、かつこれを不朽に伝えんと欲す」

 これは岩瀬弥助翁自ら、文庫創設を喜び、神社に奉納した石燈籠に刻まれた銘文の、冒頭の一節です。ぜひ西尾に、岩瀬文庫に、いらしてください。弥助翁が待っています。

 来年は岩瀬文庫ボランティア結成10年目。今回の受賞を契機に、節目の年に向けて、また仲間と何かできれば、図書館サポートフォーラムの皆様のご厚情に少しでも御礼になるかと、今密かに思っております。

 このたびは本当にありがとうございました。