表彰講評 水谷長志 氏(表彰委員会委員長)


 図書館サポートフォーラム表彰委員長をしております東京国立近代美術館の水谷と申します。よろしくお願いいたします。

 早速ですが、第17回図書館サポートフォーラム賞の表彰結果について、ご報告いたします。

 今回は、図書館サポートフォーラムの会員および事務局より、個人8名、団体2件の10の表彰候補が推薦されました。

 この数は昨年の9件よりも1件多い推薦数でありまして、このところ引き続いて、表彰候補の数は上向いております。

 今年もまた、いずれの個人、団体についても、図書館員および図書館の外から図書館をサポートされ、図書館活動を推進するお仕事をされていて、いずれも高い業績と評価をすでにお持ちの方々でありました。

 選考は3月17日、大森の日外アソシエーツにおいて15名の出席幹事による投票および2名の不在幹事の通信投票によることとなりました。

 出席・不在のあわせて17名の幹事による投票が行われ、その結果、この度の第17回図書館サポートフォーラム賞は漆原宏様、小川千代子様、戸塚隆哉様のお三人様が受賞されることになりました。

 では、順に第17回図書館サポートフォーラム賞の表彰理由について述べさせていだきます。


 まず最初に、写真家の漆原宏様の表彰理由を読み上げます。


 東京証券取引所勤務のかたわら東京総合写真専門学校を卒業、写真雑誌(株)研光社勤務の後、1974年にフリーカメラマンとなる。1983年に『地域に育つ暮らしの中の図書館』(ほるぷ出版)を出され、その後も日本図書館協会の『図書館雑誌』に「フォト・ギャラリー」を連載、2013年には同協会から『ぼくは、図書館がすき―漆原宏写真集』を刊行された。氏は一貫して利用者、職員、そしてさまざまな図書館への関与者の姿を図書館の空間の中に探し、発見しながら「図書館の風景」をいきいきとしたイメージとして記録されてきた。おそらくは後世の日本の図書館(史)研究者は、氏が残し定着させたイメージをもとに20から21世紀の日本の図書館の姿を理解し、再構築するに違いない。その他に代え難き功績は図書館サポートフォーラム賞にふさわしく、高く評価して表彰するものである。


 ハンガリー出身の写真家アンドレ・ケルテス(1894-1985)の写真集に『読む時間(On Reading)』(Penguin Books 1982, 創元社 2013)があります。読書することの幸いと不思議の情景を切り取って提示するこの写真集に魅惑された経験を持つ読書人、図書館人も多いことでしょう。ここに一冊持ってきた新書『藤田嗣治 本のしごと』のカバーの、この藤田が本に見入る、この写真もケルテスの写真です。

 図書館が周年事業で刊行する年史あるいは毎年の日本図書館協会建築賞の記事、あるいは『新建築』など建築雑誌にも多くの図書館の様子・空間を伝える写真は多いのですが、大体が無人の図書館建築の写真です。生きた「資料」と「利用者」と「図書館員」が交錯し、交響しあう様を伝える写真は、極めて稀であります、本当に少ないです。

 おそらくは20世紀後半から今日、そして近い将来までのスパンで、広く日本の図書館の風景を後世に伝えるものは、漆原氏の写真のほかには無いのではないでしょうか。そして同時代を共にする図書館人は、漆原氏の写真に出会うことによって、ケルテスの写真から得るのと同じ、読書と図書館の幸いと不思議に共感し、さらには同業者による本と図書館へのさまざまなアイディアと工夫をそこに見出し、借用しているのに違いないのです。心ある図書館員であれば。

 このように漆原氏の長年にわたる写真は、読書と図書館をめぐって、同時代と未来に向けて、ほかに代えがたい歴史的文化的遺産をもたらしているのです。その功績はまことに図書館サポートフォーラム賞にふさわしいものと考えています。

 昨年、2014年の全国図書館大会の第16分科会「図書館を語る」は、漆原さんの写真集を見ながら、分科会をともにした23人全員が図書館への想いを語り合ったということでした。このような効用も漆原さんの写真にはあるのです。


 次いで、国際資料研究所代表/藤女子大学教授の小川千代子様の表彰理由を読み上げます。


 東京大学百年史編集室から国立公文書館で勤務される中で、1989年に米国・認定アーキビスト・アカデミー(Academy of Certified Archivists)資格を得て、1993年からは独立してDJI(Documenting Japan International: 国際資料研究所)を設立。以後、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、記録管理学会、ICA(International Council of Archives: 国際文書館評議会)などの学協会での諸活動ならびに藤女子大学ほかでの教鞭など、近年の日本におけるアーカイブズ事業のほぼあらゆる方面において国際的、先導的かつ啓蒙的な活動を展開されてきた氏の業績は、図書館界に対しても多大な恩恵をもたらしており、その功績は図書館サポートフォーラム賞にふさわしく、高く評価して表彰するものである。


 いま表彰の理由として「氏の業績は、図書館界に対しても多大な恩恵をもたらしており」と述べたのでありますが、MLA連携の言葉もありますが、事態はすでに「連携」から「融合」へとさらに進化を遂げているという声も聞かれます。とは言え、MLAの個々の立場からするとそのコレクションへの対し方、職業観、あるいは倫理観、もっと砕けて言えばある種の「作法」にはそれぞれ固有のものがあり、容易には連携したり、ましてや融合することはないような気もしています。図書館員気質をライブラリアンシップ、学芸員気質をキュレーターシップなどと言うのであれば、そのシップこそがそれぞれの仕事の「矜持」であり、「作法」なのだと思います。

 アーカイブの世界ではアーキビストシップと言うのでしょうか、あまり聞いたことがないので、ある人にお尋ねしたら、「アーカイヴィイ:archivy」ではないかとお答えいただいたことがあります。アメリカのアーキビスト協会であるSAA(Society of American Archivists)のオンライン・グローサリーにもある言葉ですが、「The discipline of archives」とあるので、ある意味近いのかもしれません。私としてはMLAの異なるシップが、互いに異なることを前提にしながら、互いを認知、承認、尊敬して「連携」を図るのが望ましいのではないかと考えておりまして、2011年のINFOSTAの『情報の科学と技術』に、「MLA連携のフィロソフィー」と言う題目でその考えをまとめたことがあります。

 さて、小川千代子様に話を戻します。氏は、現在、記録管理学会会長でもあり、多方面でのご活躍は本日ご来場のみなさまのよく知るところであって、さらに私が付け加える事もないのでありますが、とても強い印象を持ったのは、それこそ小川様の「アーカイヴィイ」を鮮烈に記憶したのが、この『アーカイブを学ぶ 東京大学大学院講義録「アーカイブの世界」』(岩田書店、2007)の末尾に小川様が書かれた「残すということ」という一文です。7章からなるのですが、いずれも強いメッセージ性のある章題でありますので、ご紹介したいと思います。

 始まりが、■「残す」はチカラの反映、続けて、■記録を「残す」人間/■残せるか否か、これが問題/■「残す」は世界共通の関心事/■利用提供は切り離す/■残すということ、最後は、■文化のモノサシ、となっております。

 ライブラリアンシップの反映として、図書館員は「残す」ことにここまで明快直截には言えないきらいもありますが、それこそシップの差異に起因するのではないでしょうか。

 その差異を越えて「連携」するヒントが、小川さんのアーキビストとしてのシップの表出の力強さにあるように思われてなりません。


 最後に、元・情報科学技術協会〔INFOSTA〕の戸塚隆哉氏の表彰理由を読み上げます。


 UDC(Universal Decimal Classification: 国際十進分類法)は、ベルギーのポール・オトレ、アンリ・ラ・フォンテーヌが19世紀の末に、「本」を書架に分類配架するために開発されたデューイのDCを克服し、「文献」を分類するツールとして開発され、特に科学技術系専門図書館において多く採用されたものである。
 日本でも、氏が事務局をされていた2つの継続する協会において日本語版が維持されてきたが、2004年の同協会のUDC事業からの撤退後も、UDCコンソーシアムにおける日本側アドバイザーに就任するとともに、2002年発行のUDC CD-ROM版以来途絶えていた日本語版(要約版)を10年ぶりに作成・公開に尽くされた。
  ともすれば今日、検索において看過され、忘れられがちな分類の意義を、UDCの日本語化を通じて再考を促す氏の業績は、あらためて高く評価されるべきものであり、図書館サポートフォーラム賞として表彰するものである。


 昔々、検索(サーチ)ではなく、情報検索(インフォメーション・リトリーバル)を学んでいたとき、文献検索に必要な知識として、DCはDCでも、UDCの知識が必要なことを教えられましたし、件名(サブジェクト・ヘディング)、統制語彙(コントロールド・ボキャブラリ)、シソーラスなどなど、カタロギング・ルール以外にも多様でなかなかに手強いツールを駆使する専門図書館員、サーチャーとかインフォ・プロといまでは言うのかもしれませんが、そういうプロフェッショナルな風貌のイメージとUDCは離れ難く記憶に残っています。

 確か、INFOSTAの『情報の科学と技術』の前誌であった『ドクメンテーション研究』の個々の論文のタイトル部分には、「:」で繋がれたUDCが麗々しく印字されていて、さすがUDCの旗振り協会の雑誌と尊敬の念を抱いていたものでした。それがいつの間にか情報科学技術協会へと移行して、その「:」で繋がれた魔法の文字列もいつの間にか消えていて、一応、私もINFOSTAの会員なのですが、迂闊にもかつての旗振り協会がUDC事業から撤退したとは、まったく意識の埒外にありました。この事態に対して、誌面で議論があったのかも詳らかにしませんでした。

 あらためてバックナンバーをひっくり返しますと、2004年の9月の巻末誌面広告には、『UDC中間版第3版』がありますが、次号の10月からはそれも消えて、11月には「当協会はUDC協会の出版物の取り扱いを終了しました。」のページがあり、「2002年度の通常総会でUDC協会を退会することが決議された」と記されていました。誌面の論文表題からUDCの文字列が消えたのは、もっと後の2009年1月号からでした。

 このように日本では役目を終えたかのUDCの、その日本語要約版を維持しようとする戸塚氏の功績を、推薦者は、「単にUDCの国内普及への尽力にとどまらず、知識の体系化における十進分類表の存在意義の高揚に大きく寄与したと言っても過言ではない」と述べて、結果、多くの票を得ることとなりました。

 昨年、私は、ベルギーに行く機会がありました。まさにオトレの学んだルーヴァン大学で日本資料専門家欧州協会(EAJRS)のカンファレンスに参加するためでした。UDCはともかく、ドキュメンテーションの活動がこの地から始まったことに深い感銘を覚えたのですが、この大学の図書館は、ヴォルフガング・シヴェルブシュの『図書館炎上―二つの世界大戦とルーヴァン大学図書館』(叢書・ウニベルシタス)の通り、図書館はプロイセンとナチスによって二度焼け落ちたのでありました。

 前の表彰者の小川さんの「残すということ」の意味をあらためて振りかえる機会ともなったのでありました。


 第17回を迎える図書館サポートフォーラム賞も、この賞の三つの柱にかなって、長年の研鑽と国際性、そして図書館のあることの意義の発露顕現をよく示すお三方に授賞いただき、選考委員長として、ことのほか嬉しく思っております。

 以上をもちまして、簡単ではございますが、今回の図書館サポートフォーラム賞の表彰者のご紹介とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました。