漆原 宏 氏(写真家) 受賞のことば


漆原 宏氏 雨の中、またお忙しい中ありがとうございます。この度の栄に預かり感謝申し上げます。

 第17回図書館サポートフォーラム賞表彰の理由を読んで、なんと嬉しい言葉、なんと勇気づけてくれた言葉を受けたことでしょう。

 幼少期、私は今で云う“アキバ通い”が日課でした。無論、小遣いなぞなかったですから、ジャンク屋で人の動きを見ているのが好きな子で、日々満足していました。歳経て蔵工(東京都立蔵前工業高等学校)の電力科へ入ったのも不思議ではないでしょう。職業にカメラを握るのも、社会を見ていて工具がカメラに変わった気がします。被写体には、自然に手を加える仕事人を好み、物を産み出す人に引かれます。図書館の仕事も建物より職員の仕事ぶりや利用する住民にカメラが向きます。

 私が図書館を撮りだしたのは、日本人が真剣に日本の行く末を考えて行動し出した“60年安保”と云われた後で、図書館員が日本の図書館のあるべき姿を考え出し、具体化し、それなりに変化を確信した頃で、記事と写真で実体を世に問う行動に出たお付き合いを引き受けた事に始まります。

 職員は皆、活き活きとして地域住民も意識的に働きかけていました。この時代、千葉治氏との出会いが大きく彼から全国の図書館人との出会いが始まりました。図書館も移動図書館も、地域住民で埋まり、花が咲いた様でした。今と比べるのも可笑しいですが、中で笑っている自分がいました。

 千葉館長以下職員の動きは、傍から見ていても羨ましいほど地域住民の生活や遊び、そして自治体住民の日常生活に欠かせない資料を一連の書架に集合させ、手に取りやすい工夫がほどこされ、親子が安心して利用可能にしていました。図書館現場の撮影を依頼された時、私が描いた写真は「事実を有りのままに映し出す」ことでした。墨田区立八広図書館の初期は、格好の被写体が連日繰り広げられていました。10年後『地域に育つ くらしの中の図書館―漆原宏写真集』(ほるぷ出版)は、全国の図書館人に詳しい千葉館長に紹介して頂きながら撮り溜めた写真で創った冊子で、墨田区立八広図書館のカットが多いのです。

 1980年〜2000年までの写真は、パネル化され、全国の図書館と図書館空白町村で展示されています。昨年末から高松市にある香川県子ども文庫連絡会で管理・貸出されております。既に25カ所程で展示されています。

 月日は瞬く間に過ぎ、1990年に「生涯学習振興法」が国会で成立すると、機構の改革が静かに浸透し始めて、複合施設を設置・運営する自治体から民間委託化が始まりました。

 今年、すでに四半世紀になります。東京を含め各都市の公共図書館は、ほとんど民間委託か指定管理になりました。好きな職場に就職しても非正規か労働条件が悪いのが実態です。職員は、利用者マニュアルが科せられ、利用者との会話すら遠慮しなければならないし、カウンターにたむろする子どもたちすら見かけることが少なくなりました。返却は、機械化され、質問すら出来かねる始末。機械をのぞき見する施設を設けている図書館すらあります。

 創業・起業も良いですが、自治体行政の一機関なら、駅前のシャッター街化を阻止し、街の賑わいと住民生活の文化を今一度、取り戻す工夫を創り出す社会を期待したいです。

 終わりに、この大きなご褒美も全国の図書館と図書館員のご協力があってできましたことで、茲に心よりお礼申し上げます。どうも有り難うございます。