表彰講評 水谷長志 氏(表彰委員会委員長)


 図書館サポートフォーラムの表彰委員長をしております東京国立近代美術館の水谷と申します。よろしくお願いいたします。

 早速ですが、第18回図書館サポートフォーラム賞の表彰結果について、ご報告いたします。

 今回は、図書館サポートフォーラムの会員および事務局より、個人7名、団体4件の総計11件の表彰候補が推薦されました。

 この数は昨年の10件よりも1件多い推薦数でありまして、このところ引き続いて、表彰候補の数は上向いております。

 今年もまた、いずれの個人、団体についても、図書館員および図書館の外から図書館をサポートされ、図書館活動を推進するお仕事をされていて、いずれも高い業績と評価をすでにお持ちの方々でありました。

 選考は3月17日、大森の日外アソシエーツにおいて13名の出席幹事による投票および2名の不在幹事の通信投票によることとなりました。

 出席・不在のあわせて15名の幹事による投票が行われました。昨年にも増して投票の結果は拮抗しておりましたが、厳正かつ公平な選考経過の結果、この度の第18回図書館サポートフォーラム賞は埼玉県立久喜図書館様、田川浩之様、手代木俊一様の一団体とお二人様が受賞されることになりました。

 では、順に第18回図書館サポートフォーラム賞の表彰理由について述べさせていただきます。


 まず最初に、団体表彰として埼玉県立久喜図書館様 の表彰理由を読み上げます。


 ○埼玉県立久喜図書館

 埼玉県立久喜図書館は国立国会図書館レファレンス協同データベースの最初期より参加し、県内の他の県立図書館と連携しながら多分野にわたるレファレンス事例を登録し続け、今日、自他ともに「日本一!」を誇る成果を提供している。数値的に見るならば、平成26年度末において、累積登録点数「25,962」、年間登録点数「1,277」、被参照件数「2,017,711」となっている。国立国会図書館のWebサイトで「データ総登録数15万件突破記念ページ」は平成27年7月に公開されているが、久喜図書館は実にその約17%超を担ってきたことになる。ちなみに平成27年3月時点の参加館は656館。埼玉県立久喜図書館のデータ被参照件数は、国立国会図書館を除き、平成20年度より8年連続全国一、累積登録点数は国立国会図書館に次ぎ、第2位である。このような実績を支えている理念は、埼玉県立図書館が重点目標の一つである課題解決支援機能の強化として県民の専門的な調査研究活動を支援するため、レファレンスサービスを推進するとしていることからも顕著である。以上に見られる継続的なレファレンス活動は県立図書館の使命を良く示しており図書館サポートフォーラム賞にふさわしく、高く評価して表彰するものである。


 私自身は埼玉県の図書館とはわずかではございますがご縁がありました。本務の独立行政法人国立美術館の理事を介しての依頼だったかに記憶しておりますが、2014年の春から夏にかけて4回にわたり開かれました「[埼玉県]新県立図書館在り方検討有識者会議」に委員の一人として出席させていただいたことがあります。その会議の席では、美術館の中のアートライブラリの経験から、新しい県立図書館へ期待するイメージを語る機会もいただいておりましたが、結果としては、日本図書館協会の『図書館雑誌』の2015年7月号に前埼玉県立図書館協議会会長の小笠原清春氏が、「埼玉県立浦和図書館閉館をめぐるあれやこれや」という記事にお書きのように、結果は、県立浦和図書館を閉じて、「社会科学と歴史・哲学」の熊谷図書館、「自然科学と芸術・文学」の久喜図書館の2館体制に落ち着いたのでありました。この有識者会議は新しい県立図書館を作るのではなく、2館体制を敷くために用意された有識者会議だったのか、などといささかの懐疑をしたこともございますし、ある種の空漠感を持ってこの記事を眺めていたことも事実でした。さまざまなご事情あってのことと推察いたしますので、これ以上言及することもないのでありますが、そのような状況であったとしても、いま表彰理由においてお伝えした埼玉県立久喜図書館、というよりは、埼玉県の公共図書館のレファレンス業務への取り組みが、このような事態の推移の中においても変わることなく継続され、一層の成果を挙げられたことに、あらためて敬意を表したいという思いが強まるのでありました。新図書館というハコを作ることに比べたら、レファレンス・ワークは市民への訴求力は強くないのかもしれません。図書館員自体も、いま、レファレンスの意義をあらためて再確認することは、難しいことかもしれません。そのような環境にあっての、この継続は、ある意味、県立図書館の機能を見直す格好の事例であると言えるかもしれません。そのように、図書館界に一石を投じるものとして、私たちは埼玉の図書館の今後を注意深く見守る必要がありますし、この賞を出す者の、授章者としての責任もまた認識しなければならないのだと思い直しております。


 次いで、金沢文圃閣代表の田川浩之氏の表彰理由を読み上げます。


 ○田川浩之氏 (金沢文圃閣代表)

 田川氏は北陸の古都金沢において古書店を営むとともに、書籍・出版・図書館・書誌・戦時期文化史資料などに関わって他にない出版活動を展開している。特色的な数例を挙げてみるならば、出版・書誌・書物メディア史の「文圃文献類従」には、田川氏ご自身の解題になる全2巻の『出版情報(戦時占領期出版関係史料集)』、天野敬太郎の「書誌の書誌」を完結せしめた『日本書誌の書誌―社会科学編(主題編3)』があり、「図書館学古典翻訳セレクション」には、ガブリエル・ノーデ『図書館設立のための助言(品切)』やピアス・バトラー『図書館学/印刷史著作集』ほかの藤野幸雄父子による訳書がある。ちなみに故藤野幸雄氏は2009年第11回の本賞を受賞されている。さらに2001年第3回本賞の受賞者である深井人詩氏の先導によって2001年以来の年刊書誌雑誌『文献探索人』、そして『文献探索人叢書』の刊行を続けられるなど、図書館員による書誌・年譜編纂の成果公開のための貴重な場を提供していることは、図書館員の自己研鑽へ向けての大きな支援、エールであると考えられる。この事業自体、図書館の外から図書館と図書館人をサポートする、まさに図書館サポートフォーラム賞にふさわしく、高く評価して表彰するものである。


 図書館サポートフォーラムが年に一度出す同人誌の『ふぉーらむ』に私自身と金沢との縁について書いております。若き日を過ごした金沢は私にとって、ほかに代えられない大切な思いのこもった土地であります。さらには恩氏の藤野幸雄先生が奥様とともに晩年を過ごされ、そして身罷られた土地であり、金沢文圃閣様から多くの訳書をご子息の寛之さんと出されていることもなにかの繋がりのように感じられます。というような個人的感懐はさて置いて、金沢文圃閣、田川様のお力によって刊行された、本と図書館とそして日本近代文化史、政治史にまでおよぶ多くの書籍のラインナップには瞠目すべきものがあるのは、ここにお集まりの多くの方々が共感されるところかと思います。加えて、図書館員による書誌・年譜の公表の機会を『文献探索人』『文献探索人叢書』という出版形態でもって提供されていることの意義は、繰り返し声を大にして伝えなければならない業績であると思います。もちろん本日、田川様に代わってご臨席の深井人詩先生のお導きあってのことかと推察いたしますが、書誌や年譜は作るだけではほとんど意味がありません。書誌や年譜は、活字化し、版面を作り、公表、刊行することが大事です。なぜならば、書誌・年譜の成否、価値の多くの部分は、いかに個々の記述をレイアウトするか、排列するか、見やすく使いやすいページを作るかが肝要なのですから。「書誌の書誌」の天野敬太郎先生もそのように述べられていたと記憶いたします。ですので、公表されて人の目に触れて、そして使われて、誤りは必ずありますから訂正されて、さらに編者ご自身でも他者であれ、いずれでも良いのですが、書誌や年譜は、いつか前作が凌駕されてこそ、価値があるのです。そのためには公表する場、メディアが必要です。それを提供し、維持して下さっている金沢文圃閣様の事業は、まったくもって他に例を見出すことのない貴重なものであり、外から図書館と図書館員をサポートされている、といつも感服し、感謝しているのであります。


 最後に、立教大学立教学院史資料センター員/元・フェリス女学院大学附属図書館の手代木俊一氏の表彰理由を読み上げます。


 ○手代木俊一氏 (立教大学立教学院史資料センター員/元・フェリス女学院大学附属図書館)

 手代木氏は中央大学文学部哲学科を昭和48年に卒業され、神戸女学院大学、フェリス女学院大学、国際基督教大学、立教大学、明治学院大学など多くのキリスト教系私学の図書館あるいは研究資料センターに勤務され、勤務のかたわらキリスト教礼拝音楽学会の発起人の一人となり、機関誌『礼拝音楽研究』を創刊、日本近代史における讃美歌、聖歌史研究の書誌等基礎資料の編纂と研究成果の公表に多大な業績を残されている。特に2010年に刊行の『日本讃美歌・聖歌研究書誌』は、明治初期に遡って同主題の網羅的書誌として類例のない業績である。例えば、冒頭にある書誌の一項、いささか長いのであるが、を紹介するならば、1880年(明治13年)、「Suggestions for a Japanese Rendering of the Psalms」Basil Hall Chamberlain, 『Transaction of Asiatic Society in Japan』Vol. 8, Pt.3(4月)[B. H. チェンバーレン 詩篇日本語訳への提言及び試訳『讃美歌』<韻文訳詩篇>」手代木俊一訳『フェリス女学院大学音楽学部紀要』第1号(1995年1月)、『讃美歌・聖歌と日本の近代』(音楽之友社 1999年11月)に改定収録]というものであり、その精緻さ、時間の掛けようは容易に理解されるであろう。本書誌は音楽史のみならず日本近代史研究に広く活用され得るべきものと言えるのであり、長年にわたる研鑽は優れた図書館員の姿勢の典型として図書館サポートフォーラム賞にふさわしく、高く評価して表彰するものである。


 私自身は、讃美歌とか聖歌とかにはほとんど縁なく育ちましたが、息子がカトリック系の小中高の一貫校に通い、小学校の2年から卒業まで、聖歌隊に入っていて、当時はNHKの合唱コンクールでも連続して優勝を重ねていたので、ベンジャミン・ブリテンの「キャロルの祭典」などを歌っていたのを不思議に感動しながら聞いていたくらいにしかご縁も知識もないのですが、推薦者からご提供の『日本讃美歌・聖歌研究書誌』のコピーでそのお仕事の一端を拝見し、これはただ事ではない書誌であることは認識できました。そもそも音楽図書館のライブラリアンというのは、当然のごとく楽譜が読める方でないと務まらないのだと思いますが、手代木氏の例えば、『礼拝音楽研究』の2014年の14号に掲載の論文が「琉球語讃美歌史―ベッテルハイム、伊波普(いはふ)猶(ゆう)、新垣信一を中心に」であったりして、その調査と知識の広大さに畏怖の念を覚えるばかりであります。推薦者の言葉に、「図書館員がルーティンワークに埋没せず、その職場環境を活かして専門分野を見つけ、着実な資料収集と資料研究の成果を公表することによって当該分野の研究基盤を固め」とありました。まさに手代木氏のお仕事はこの評言に相応しいのでしょうが、浅学にして私には付け加える言葉はありませんが、手代木氏の受賞が、「図書館員がルーティンワークに埋没せず」にはいられない、現今、ただいまの事態の真っただ中にいる現役の図書館員への大きな刺激とエールになれば、この賞の価値もさらに高まるのだと信じています。


 第18回を迎える図書館サポートフォーラム賞も、この賞の三つの柱にかなって、長年の研鑽と国際性、そして図書館のあることの意義の発露顕現をよく示すお二方と一機関に受賞いただきました。今回、例年になく多彩な受賞者を得ましたこと、表彰委員長として、ことのほか嬉しく思っております。

 以上をもちまして、簡単ではございますが、今回の図書館サポートフォーラム賞の表彰者のご紹介とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました。