表彰講評 水谷長志 氏(表彰委員会委員長) ※欠席のため、木本幸子表彰委員代読


 図書館サポートフォーラムの表彰委員長をしております跡見学園女子大学の水谷と申します。本日は本務校の講義が入っておりまして、生憎と欠席いたしますが、表彰委員の木本幸子様に代読をお願いいたします。

 早速ですが、第20回図書館サポートフォーラム賞の表彰結果について、ご報告いたします。

 その前に、第1回図書館サポートフォーラム賞は、1998年2月15日に 授賞式が挙行されましたことをあらためてふり返りたいと思います。第1回の受賞は、山形県川西町の故井上ひさし氏蔵書を納めた遅筆堂文庫様、MK図書館研究所主宰・元国際基督教大学図書館長の鬼頭當子様、前日本図書館協会利用教育委員会委員長・慶應義塾大学名誉教授の濱田敏郎様、前銀行協会図書館長の藤田幸弘様の4名に贈られました。以来、途絶えることなく、ここに20回目の図書館サポートフォーラム賞の授賞式が開かれることになりましたのも、フォーラムの会員のみなさま、山崎代表はじめ幹事のみなさま、そしてなによりも推薦者と非推薦者のみなさま、そして歴代の受賞者の皆様の価値あるお仕事とご協力によるものと、あらためてお礼申し上げます。

 今回は、図書館サポートフォーラムの会員および事務局より、個人6名、団体4件、10件の表彰候補が推薦されました。

 この数は昨年の11件とほぼ同数ですが、団体が結果として、昨年より1件少ない候補の数となりました。

 今年もまた、受賞の個人、団体は、図書館員および図書館自体が図書館界をサポートされ、図書館活動を推進するお仕事をされていて、いずれも高い業績と評価をすでにお持ちの方々でありました。

 選考は3月13日、大森の日外アソシエーツにおいて11名の出席幹事による投票および6名の不在幹事の通信投票によることとなりました。今年は出席幹事も多く、出席・不在のあわせて17名の幹事による投票が行われました。昨年にも増して投票の結果は拮抗しました。厳正かつ公正な選考経過の結果として、昨年と同じに、例年よりも1件多い4件で落着いたしましたが、今回は特別に、出席幹事の中にフォーラム賞の第20回目を記念したいという強いお心持ちがあり、現在ただいまのフォーラム幹事の世代よりも大方一世代前の先達について、20回というこの節目に合わせて表彰するという結果になりました。すなわち、この度の第20回の図書館サポートフォーラム賞は、奥泉和久様、小山騰様、公益財団法人大宅壮一文庫様、そして特別表彰に前園主計様の個人3人様と1団体様が受賞されることになりました。

 では、第20回図書館サポートフォーラム賞の表彰理由について述べさせていただきます。


 まず、最初に個人表彰として奥泉和久様の表彰理由を読み上げます。


 ○奥泉和久〔法政大学 非常勤講師/元・横浜女子短期大学図書館〕

 奥泉和久氏は長く大学図書館の現場において勤務されつつ、『近代日本公共図書館年表 1867〜2005』をはじめ多くの図書館史に関わる著作を公刊され、日本図書館文化史研究会の編集による『図書館人物事典』を先導して大きな成果を残して、近年の図書館史研究の活性化に大きく寄与した。中でも『図書館史の書き方・学び方』は、近々、韓国図書館協会から翻訳・刊行される予定があるなど、同研究領域において後進および海外への波及浸透をもたらすものであり、まさに図書館サポートフォーラム賞にふさわしく、高く評価して表彰するものである。


 いささか幽霊会員ながら、昔から私も図書館文化史研究会の一会員でありますが、定期的に送られてくる同研究会の会報から、近年の活動について、瞠目させられることが多く続いておりました。ことに、2007年の20人の評伝集である『図書館人物伝』に次いで刊行された2017年の1,421人を取り上げた『図書館人物事典』は、未定稿であった石井敦氏の『簡約日本図書館先賢事典』をこの時点で望みえる限りの定稿として仕上げられた事業は、一研究会の枠を越えて、大きな成果を図書館史研究の領域に残したと言えるでしょう。

 この本書の「あとがき」は同書編集委員を代表して、奥泉様が書かれていますが、その末尾には、「ますます専任の図書館員が減少の一途をたどるような状況のなかで、なぜ図書館員が必要なのか理解を広めるためにも、いつの時代にも知の宝庫を守り、知を共有するために尽力した人たちがいたことを伝えていく努力が求められるのではないか」と書かれています。私どもの図書館サポートフォーラムも、そしてフォーラム賞もまた同様のつとめと願いから発していると考えておりますので、今回、奥泉様を記念すべき20回目の受賞者にお迎えできたことは大変、嬉しくもまた光栄に思われてなりません。


 次いで、同じく個人表彰の小山騰様の表彰理由を読み上げます。


 ○小山 騰〔元・ケンブリッジ大学図書館日本部長〕

 小山騰氏は1985年から2015年までケンブリッジ大学図書館日本部長を務められた。同図書館が所蔵する膨大な日本語コレクションには、英国三大日本学者のサトウ、アストン、チェンバレンをはじめとする明治時代の外国人たちが持ち帰った数々の貴重書が残され、平田篤胤や本居宣長らの国学から始まる日本研究の歩みが所蔵されている。2017年出版の著書『ケンブリッジ大学図書館と近代日本研究の歩み―国学から日本学へ』は「国学⇒日本学⇒日本研究」という変遷について、サトウら三人にフォーカスして明示したことの意義は、今後の海外における「Japan Studies」の発展を考える上でも貴重な示唆となっており、まさに図書館サポートフォーラム賞にふさわしく、高く評価して表彰するものである。


 いささか私事でございますが、この三月末で退職した東京国立近代美術館におりました2014―2016の三年間は、文化庁の補助金によりまして、「海外日本美術資料専門家(司書)の招へい・研修・交流事業」、通称JALプロジェクトを企画実現いたしました。これは海外にあって日本の美術および日本研究に関わって、特に資料面から司書、ライブラリアンとして実務に携わる方々を日本に招聘し、研修交流するものでした。当然、ケンブリッジ大学の日本資料コレクションの担当であった小山様にもコンタクトしましたところ、ちょうどご退任されて、アメリカのハーバード大学で博士の学位を修められた才媛を後任に迎えられておりました。その後任のクリスティン・ウィリアムズさんも最終年の2016年のJALプロジェクトにご参加いただきました。

 このように海外の日本研究機関で日本関連資料を預かって、海外における“Japan Studies“の発展に図書館員として寄与している日本人が少なからずいらっしゃる、その現場・現状をこのプロジェクトを通して知ることになったわけです。

 日本国内におけるこの職業の困難さ、については先ほどの奥泉様の言葉にもある通りですが、海外の日本人図書館員も、例えばCJKとして並び称される中韓の攻勢にあって、なかなか厳しい現実も垣間見られました。そのような環境の中から、実務をこなしつつ本書のような、他に書き手が居ない内容のご著作を著された小山氏のご研鑽は、多くの後続の同業を志す者に大きな励みを与えていると強く思うところです。


 次いで、団体表彰の公益財団法人大宅壮一文庫様の表彰理由を読み上げます。


 ○公益財団法人大宅壮一文庫

 著名な評論家であった大宅壮一氏の没後1971年に雑誌専門の個性ある公開専門図書館として半世紀の長きにわたり活動する私立図書館(現公益財団法人)の本文庫は、国立国会図書館や公共・大学図書館が収集対象として軽視してきた、きわめて多数の一般大衆誌に注目し、独自の索引・分類方式を開発して、とりわけ報道活動への大きな貢献を果たし、1982年にはその実績をもって第30回菊池寛賞を受賞している。近年の財政難にもクラウドファンディングを通じて体制を堅持しているが、あらためて図書館人が同文庫の価値を再評価することを期待し、図書館サポートフォーラム賞にふさわしく、高く評価して表彰するものである。


 表彰理由においても触れましたが、大宅壮一文庫は1982年に菊池寛賞を受賞されています。報道・編集関係者にはとみに著名な文庫ですが、なぜか図書館界においては、その功績と実力が正しく伝わり、認識されていないのではないかということが、推薦者より述べられました。私も同感ではありますが、これは逆に言えば、図書館員の側にユニークで特異な図書館を構想する、あるいは妄想する力の弱さではないか、と思うところでもあります。例えば、いまの図書館に、大宅壮一文庫の蔵書構築の凄みや膨大な記事への孤高独立のアクセス術の開拓において発揮される進取卓抜さなど、真似ようにも真似られないでしょう。

 まずは図書館人がこの文庫を使いこなす愉悦を知ることから始めていただきたいと思います。私自身はかなり以前、現代彫刻の分野で独自の世界を切り開いた若林奮(いさむ)の東京国立近代美術館での展覧会に際して書誌を編んだのですが、その中に女性雑誌『アン・アン』に向田邦子が「男性鑑賞法」というエッセイで若林奮について書いている、その記事を展覧会カタログの書誌の一項に加えられたことを喜びとともに記憶しています。この記事を実際に手にしたのは、まさに大宅壮一文庫でした。向田邦子と若林では、普通の探索術では繋がらない関係の、このような記事も、大宅文庫でなら、大宅文庫の索引からなら見つかる、という鮮烈な感動を覚えたことをいまでも思い出すのです。


 次いで、特別表彰の前園主計様の表彰理由を読み上げます。


 ○前園主計〔元・山梨英和大学教授〕

 前園主計氏は、1956年慶應義塾大学文学部図書館学科を卒業、同年4月(財)日本生産性本部に就職、1960年には米国コロンビア大学スクール・オブ・ライブラリー・サービスに留学、40余の米国専門図書館を訪問し、帰国後「アメリカと日本の専門図書館」『図書館雑誌』(1962年3月)を著した。以来半世紀を越えた旺盛な著述活動、専門図書館協議会、日本ドクメンテーション協会等での先駆的活動、青山学院女子短期大学ほかでの教育や啓蒙活動を通じて、日本の図書館界を先導されたことは余人をもって代え難く、まさに図書館サポートフォーラム賞特別賞にふさわしく、高く評価して表彰するものである。


 あらためて図書館サポートフォーラム賞の歴史を辿りますと、第1回の4名の受賞者から昨年の第19回まで実に58の個人・団体の受賞者がいらっしゃいます。2009年の第11回では、本フォーラムの創設者である末吉哲郎様が図書館サポートフォーラム賞特別表彰を受けられております。

 冒頭述べましたように、「20回目を記念したいという強いお心持ちがあり、現在ただいまのフォーラム幹事の世代よりも大方一世代前の先達について、20回というこの節目に合わせて表彰」させていただく仕儀とあいなりました訳でございまして、その一世代前の先達ということでは、フォーラム幹事の多くが専門図書館畑の出身が多いということもありますのですが、戦後、日本の専門図書館において実践と理論の双方においてきわめて大きな業績を残された前園主計様が第20回における特別表彰にまさに相応しいでしょうということになったのでありました。そして、授賞式へのご出席もご快諾いただけて本日を迎えることができました。


 第20回を迎える図書館サポートフォーラム賞も、この賞の3つの柱にかなって、長年の研鑽と国際性、そして図書館のあることの意義の発露顕現をよく示すお3方と1機関に受賞いただきました。今回、例年にない、フォーラム賞とフォーラム特別賞の4件の受賞者を得ましたことを、表彰委員長として、ことのほか嬉しく思っております。

 以上をもちまして、簡単ではございますが、今回の図書館サポートフォーラム賞の表彰者のご紹介とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました。