矢野 陽子 氏(防災専門図書館) 受賞のことば


矢野陽子氏 このたび、栄えある図書館サポートフォーラム賞をいただきまして、大変光栄に存じます。推薦くださった山崎先生、選考くださった先生方、そしてサポートフォーラムの関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

 授賞理由が書かれたFAXを初めて受け取ったおり、地道に続けてきた図書館活動に気づいてくださったうえに、評価して頂いたことを知り、胸が熱くなりました。防災専門図書館の活動そのものが受賞理由ですので、その内容を少しお話できればと存じます。


 防災専門図書館の母体組織「全国市有物件災害共済会」の設立は昭和24年です。戦後の復興のなかで、災害にあった市の機能を回復させるためには、その費用を日ごろから準備しておけばよいのではないか、そういった発案から、地方自治法第263条の2に基づき複数の市が相互に救済しあう共済事業を実施するため、各市が共同して設置した機関です。

 当館は、母体組織の事業として調査研究のための収集していた資料が約2,000冊を超えたころ、より良い資料の活用方法を模索しているなかで、有数の災害国であったにも関わらず、当時の日本にはなかった「防災・災害の専門の図書館」を開設しよう、という機運が盛り上がり、昭和31年、公開型の図書館として開設しました。以来、60年を超える歴史の中で、絶え間なく資料を収集してこられた先輩方の蓄積によって、今日の防災専門図書館ができあがっています。現在では16万冊の蔵書を抱えており、独自分類で整理された資料群は、レファレンスする際の強固な下支えになっていますし、まさに宝の山そのものだと思っております。

 例えば、当館では災害を「人に災いを及ぼすもの」ととらえております。それゆえ、自然災害だけでなく、人が起こした災害も含めておりますので、災害とみなす種類が多いのが特徴です。今、多くの方を苦しめている新型コロナウイルスも「災害」として資料収集の対象となっており、「公害」分類のうちの一つ「公害病・疾病(伝染病)」として分類を付与しています。人が人を傷つける「戦災」の資料も所蔵しています。

 もちろん、毎年のように日本を襲い被害を残す台風や、一瞬のうちに人々を恐怖に陥れる地震などの資料も収集しております。例えば、東日本大震災関連では約4,000冊の資料を所蔵しておりますし、熊本地震では約400冊です。また、被災した状況を知るための資料だけではなく、災害を減らすための情報や防災教育などの資料も、広く収集しています。

 当館のスタッフは、これらすべてが命を守るための情報だと認識しています。それゆえ、私共は医者ではありませんが、常日頃から「命を守るための情報」を伝えているという自覚と熱意をもって利用者に対応しています。「防災専門図書館に行けば、何か情報が得られるのではないか?」そう思って来館される利用者の方に、正しい情報を渡さなければ、イザというときに、間違った行動をしてしまうことになるでしょう。「防災の常識」も変わっていきますので、情報の更新や、日々の新しい情報の収集も欠かせません。また、蔵書を利用した企画展を開催して、命を守る情報を集められる場所と資料があることを広く広報してきました。これら熱意が伝わってきたのか、利用者数は平成25年と比べると約6倍に増えています。

 さらに、活動を維持していくためにも、母体組織の方との繋がりもできるだけ持つようにしてきました。当館は他部署とフロアが異なっており、日ごろ行き来は多くありません。しかし、常に広報し、また相談することで関係を継続させ、たとえ求められていなくても、関連しそうな資料を積極的に提供することで、他部署の方が情報を探している時に、「そういえば図書館なら何かあるかも?」と連絡してもらえる関係を築いています。

 今年度は、他部署が企画した防災のオンラインイベントに、当館の紹介動画を流すという企画が出され、協力して動画を制作することができました。この動画はNDLのカレントアウェアネスにも紹介され、他館からも制作方法の問い合わせがくるなど、思いがけない広がりを見せています。今後は、図書館総合展や内閣府が主催する「オンラインぼうさいこくたい」でも流す予定です。

 また、平成24年度に外部有識者を招いて「防災専門図書館に関するあり方検討委員会」を開催し、28年度にはその「フォローアップ会議」を開催しました。これにより、外部からの公正な意見をもとに図書館としての方針を組み立て、その方策を母体組織へ積極的に訴えかけられる環境もつくられました。この方針は、図書館の中期計画の柱になっており、今後の図書館運営の土台にもなっていくでしょう。


 図書館の業界は、さまざまに厳しい局面にあると思います。当館も、日々の業務に追われ、事業の継承やあり方などの問題を抱えています。難しい時代になっているとは思いますが、この度いただきました賞を大いなる励みとして、これからも市民の防災意識の向上に寄与してまいりたいと存じます。誠にありがとうございました。